便秘の治療戦略 ― 機序別対応法

大船中央病院

上野 文昭先生

ここがポイント
  • 機序からみる3種類の便秘―機能性便排出障害・大腸通過正常型便秘・大腸通過遅延型便秘
  • 機能性便排出障害に通常の便秘治療をしてはいけない理由
  • 刺激性下剤の乱用が招く難治性便秘ー乱用抑制が重要課題

便秘症状を鑑別し、重大な疾患につながる警告徴候を見極めたら、機序別に分類し、それぞれに合わせた対応をする必要があります。それぞれの特徴と見分け方のコツ、対応法を大船中央病院消化器・IBDセンター特別顧問 上野文昭先生に解説いただきました。

監修大船中央病院 上野文昭先生

3つの機序と対応法

機能性便排出障害

機能性便排出障害は、他の2つの便秘と治療法のアプローチが異なるため、最初に鑑別が必要です。機能性便排出障害の便は「普通の硬さ」もしくは「軟らか」で直腸まで達しているが、最後に排便ができないというものです。診察で直腸に溜まっている不快感の訴えがあり、直腸診で便が下に来ているということが認められた場合、機能性便排出障害と診断できるでしょう。

機能性便排出障害の患者さんには、通常の便秘治療で処方される緩下剤や下剤は使用しても効果がありません。摘便、浣腸もしくは座薬による薬物治療を行います。それでも改善が見られない場合には、直腸肛門外科など、排便機能を評価できる専門医に紹介してください。

大腸通過遅延型便秘

ブリストル便形状スケールのタイプ1または2に当たる、硬い便の場合、多くは大腸通過遅延型便秘であることが考えられます。治療は生活指導から始まりますが、同時に緩下剤による薬物療法も行います。

大腸通過遅延型便秘は消化管の通過時間が遅いため、食物繊維を過剰摂取すると便の容積が増大し、かえって症状が悪化する恐れがあります。これに対応するため、最初から浸透圧性下剤や上皮機能変容薬(胆汁酸トランスポーター阻害薬を含む)など緩下剤を中心とした薬物治療を行います。それでも改善しない場合は大腸刺激性下剤を使用しますが、連用すると薬剤耐性、習慣性、依存性を招くので、頓服で用います。

大腸通過正常型便秘

ブリストルスケールのタイプ3の場合は、大腸通過正常型便秘が多いと考えられます。大腸の通過時間は正常ですが、食事量の不足などで便秘になってしまうケースがあります。便の材料となる食事量が不足すれば、便量が少なくなり、結果として便秘となってしまう場合もあります。治療法は遅延型と大きく変わりませんが、生活指導や食事指導が中心となり、薬剤も体積を増やす膨張性下剤を使用します。

大腸通過正常型便秘の患者さんは、排便頻度が正常であっても排便後に爽快感を感じないという訴えが多いです。治療は便に適度な硬さと体積を持たせることをゴールとし、次の手順で行います。

  1. 十分な水分と食物繊維の摂取、生活習慣の改善
  2. 膨張性・浸透圧性・上皮機能変容薬(胆汁酸トランスポーター阻害薬を含む)下剤の利用
  3. 大腸刺激性下剤の頓用
ブリストル便形状スケール
1〜2:硬い便、3〜5:健康な便、6〜7:軟便、めざすのは4のバナナ状のウンチ

Lewis SJ, et al.: Scand J Gastroenterol 1997; 32(9): 920-924 より作成

刺激性下剤の乱用が便秘を難治性にする

刺激性下剤の乱用を抑制するために

便秘のOTC医薬品として、センノシドやアロエ、大黄などを主成分とする刺激性下剤が多く使われています。刺激性下剤は即効性がありますが、排便前の腹痛や連用による効果低下といった短所も持ち合わせています。長期にわたり使用を続けると、服薬しても排便が起こらない難治性となるため、ますます使用量が増えて行くようになります。患者さんが刺激性下剤を乱用していないか把握することは大変重要です。

刺激性下剤を乱用する患者さんの中には、「毎日排便がないのは異常」という不安に駆られている人もいるため、まず正常な排便とは「毎日出なくても異常ではない」ことを理解してもらいます。次に、生活習慣の改善を指導し、緩下剤を使いながら刺激性下剤の使用を抑えていきます。長期にわたり刺激性下剤を使用していた場合は、大腸機能を回復するまでに長期間要することがありますが、患者さんに「数年かかって築いてきた排便習慣を変えるには、同じくらい時間がかかるもの」と伝え、根気よく治療を続けていけるよう支援していきます。患者さんには、説明をし続けていくことがとても大切です。

ここ数年の間に、新たな作用機序による慢性便秘症の治療薬が次々と登場しました。こうした薬剤を効果的に使うことで、刺激性下剤の乱用を抑制できると思います。

監修

大船中央病院 特別顧問
東海大学医学部内科 客員教授

上野 文昭 先生

Tulane大にて卒後研修課程を修了し、米国内科専門医資格取得。東海大医学部内科などを経て、2004年より現職。厚労省研究班、日本消化器病学会で炎症性腸疾患診療ガイドライン作成責任者を務めた。また、米国内科学会(ACP)日本支部長、同国際評議員、米国消化器病学会(ACG)国際関係委員会議長などを歴任。
※2019年3月現在の情報です。