不調を訴える腸の画像

便秘の原因と大腸のはたらきについて

なぜ便秘になりやすい?主な便秘の原因は生活習慣か病気です。便秘になりやすい生活習慣や便秘を引き起こす病気について解説します。

監修 横浜市立大学附属病院 中島淳先生

大腸のはたらきと
2つの便秘タイプ

便秘の直接的な原因の大半が、大腸の機能の低下や不具合によるもの。
便がつくられるしくみと便秘の人の大腸では何が起こっているのか見てみましょう。

大腸は便をつくるスペシャリスト

大腸の表面には水分を吸収するための細胞と、粘液を分泌する細胞がびっしり並んでいます。大腸は小腸からやってきた、じゃぶじゃぶの液体をちょうどいい硬さの固体に変える便の製造工場で、同時にそこでは、つくった便を排泄するために、肛門まで移動させることも行われています。

大腸で便がつくられるしくみ

※イメージ図

大腸では、小腸から大腸まで大量の消化液(水分量約9L)が吸収されながら、残った水分で便が作られます。大腸のヒダとヒダのあいだをいったりきたりして便をこねて固め、横行結腸ではゲル状、下行結腸へ運ばれる頃には半固形状となり最終的に固形便ができあがります。
水分を吸収され、こねられ、粘液をたっぷりまぶされて出来上がった便は、その一部がS状結腸に運ばれ、大腸の大ぜん動という動きによって直腸へ送り込まれます。直腸に便が入ると脳へ信号が送られ、便意が起こります。

中島 淳、すべての臨床医がしっておきたい便秘の診かた、羊土社

便秘の人の大腸では何が起きている?便秘の2つのタイプ

1排便回数減少タイプ

排便回数が週に3回未満

排便の回数や量が少ないため、
便が腸の中にたまる

※イメージ図

原因は、大腸の動きが低下していること。食べる量が少なかったり、食物繊維が不足しているケースも考えられます。結腸に多くの便が滞留するため、膨満感や腹痛を生じ、水分がどんどん吸収されることで、便が硬くなって、排便困難が生じる場合もあります。

2排便困難タイプ

直腸内の便を十分、
かつ迅速に排出できない

排便の回数や量が十分あるが、
スッキリとした排便ができない

※イメージ図

原因は、直腸のセンサーの働きが低下して便意を感じられなかったり、便意があっても直腸を十分に収縮できないケース。これにより便が直腸に溜まった状態になり、力んでようやく出たとしても一部が直腸に残ることによる残便感や、1日に何回も排便をする分割排便に悩まされたりします。

日本消化器病学会関連研究会,慢性便秘の診断・治療研究会 編、慢性便秘症診療ガイドライン2017、P.3~5、南江堂

生活習慣6大原因

便秘を引き起こす原因のほとんどが生活習慣にあります。ではなぜ、その生活習慣が便秘につながってしまうのか、具体的な原因を見てみましょう。

  • ダイエット

    食べる量を大幅に減らせば、便をつくる「材料」が不足します。そもそも、材料がなければ、便を作ることができません。また、大腸を動かしなめらかな便をつくる助けをする、胆のうから出る「胆汁酸」は、食事をした刺激で体から分泌されますので、食事量が少ないと、減ってしまいます。「胆汁酸」は、体の中にある便秘薬ともいえます。ダイエットをするとその両方が不足し、排便回数が減少してしまいます。

  • 食物繊維

    食物繊維は、そのほとんどが吸収されず体の中を通過します。食物繊維が十分にあることで、消化吸収がゆっくり進んだり、大腸内の粘膜壁を刺激して、排便を促し便通を整えてくれます。また、食物繊維は、大腸に存在する腸内細菌のエサにもなり、腸内細菌は、腸の中を浄化し良い状態にもしてくれます。また、体の中の便秘薬である「胆汁酸」を運ぶ重要な役割もあります。

  • 水分不足

    実は、便の80%は水分でできています。一般的に、毎日約9Lの消化液や水分が小腸からながれてきますが、その大半が大腸で吸収され、便に残る水分はわずか200ml(コップ1杯)ほどしかありません。口から飲む水の量が少なければ、コップ1杯を確保できずに、便が硬くなり、排便困難になってしまいます。

    前田孝文,男の便秘、女の便秘,医薬経済社

  • 運動不足

    直腸に溜まった便を押し出すには、腹筋を収縮して腹圧をかけます。デスクワークなどで座っている時間が長く、あまり運動をしない方はこの筋力が低下します。腹筋が弱いと、直腸の便を十分に肛門へ送り込むことができなくなり、排便困難になってしまいます。

  • ストレス

    胃腸が活発に動くためには副交感神経が優位に働いて、ゆったりとした、くつろいだ気分でいなければなりません。ストレスがかかり交感神経が優位な状態になると、大腸は便をこねたり、直腸へ便を送ったりできなくなってしまいます。

  • 便意の我慢

    時間がないからと、トイレに行くのを我慢し続けると、体は便意を不要なものとみなし、便意が生じないようになってしまいます。何度も便意を我慢していると、ついには便意が失われ、排便困難になってしまいます。

病院検索

便秘治療が相談できる病院が検索できます。

ひどい便秘でお困りの方は、病院で受診するのがおすすめです。
医師による適した治療を受けることが、便秘を解消する一歩になります。

女性が便秘に
なりやすい理由

女性は、男性よりも便秘の割合が多いと言われています。女性には、ダイエットをしている人なども多いですが、それだけでなく女性の便秘には女性ホルモンが大きく関係しています。
女性ホルモンのうちのプロゲステロン(黄体ホルモン)は、大腸のぜん動運動を低下させる働きがあり、月経の前に便秘になりやすい傾向があります。
また妊娠中にはプロゲステロン(黄体ホルモン)の分泌が大幅に増えますので、それまで便秘の経験がなかった女性でも多くは便秘になる傾向があります。
前田孝文,男の便秘、女の便秘,医薬経済社

便秘の原因となる病気と薬便秘は体質ではなく、原因を疑いましょう

便秘の原因には、病気や薬の副作用もあるって知っていましたか? 便秘になる可能性の高い病気や薬を詳しく見ていきましょう。

便秘を引き起こす可能性のある病気

便秘の原因として考えられる病気としては「過敏性腸症候群」などがありますが、まれに、「大腸がん」や「直腸瘤」などの病変により、物理的に便が通りづらくなる「器質性便秘」の可能性もあります。

過敏性腸症候群の便秘

過敏性腸症候群には下痢型、便秘型、交代型などがあり、近年、比較的若い年代のあいだで増えています。過敏性腸症候群はお腹の痛みや不快感をともなうのが特徴で、男性ではそれらの症状とともに下痢をする下痢型が、女性では便秘になる便秘型が多いようです。これらの症状がある場合は、一度、消化器内科・消化器外科に相談しましょう。

大腸ポリープ

大腸の管の表面(最も浅い層)にある粘膜層の一部がイボのように隆起してできたもののことを大腸ポリープといいます。大腸ポリープはその構造(組織)により大腸がんになる可能性のある腫瘍性のポリープとそれ以外(非腫瘍性)のものに分けられます。
大腸ポリープはほとんどの場合、自覚する症状がありませんが、肛門の近くにポリープができたことにより血液のまじった便が出たり、粘液のようなものが付着した便が出たりすることがあります。
これらの症状がある場合は、早めに消化器内科・消化器外科に相談しましょう。

直腸瘤

直腸瘤は女性特有の病気で、直腸の壁がおへその方向へ向かって膨らんで、瘤状になる病気です。
女性は骨盤内が広いことに加え、男性では直腸の前に前立腺という強い壁がありますが、女性の場合は直腸の前が膣になっており、この壁が薄くて弱いため、いきんだ時に直腸の中の圧力が高まると直腸瘤になってしまうのです。
やっかいなことに、この瘤の中に便がはいりこんでしまうため、必死に力んでも出ないし、便秘薬を飲んでも水みたいな便しか出ません。
直腸瘤は肛門科の医師ならすぐに見つけられます。かかりつけの病院で改善が見られない場合は、一度、肛門科に相談してみましょう。

直腸瘤の図

※イメージ図

  • ・日本消化器病学会関連研究会,慢性便秘の診断・治療研究会 編、慢性便秘症診療ガイドライン2017、P.28~30、南江堂
  • ・日本消化器病学会,機能性消化器疾患診療ガイドライン2020-過敏性腸症候群(IBS)(改訂第2版)、P.20、南江堂

慢性便秘症を起こす薬剤

薬剤の副作用による便秘も少なくありません。薬を服用しだしてから便秘になったなど、思い当たることがある場合は、処方された医師や薬剤師に相談してみましょう。

  • 抗コリン薬
  • 向精神薬
  • 抗パーキンソン病薬
  • オピオイド
  • 科学療法薬
  • 循環器作用薬
  • 利尿薬
  • 制酸薬
  • 鉄薬
  • 吸着薬、陰イオン交換樹脂
  • 制吐薬
  • 止痢薬

・日本消化器病学会関連研究会,慢性便秘の診断・治療研究会 編、慢性便秘症診療ガイドライン2017、P33~35、南江堂

まとめ
便秘は体質ではなく、原因を疑いましょう

何日かに一度しか出ない、思いきり力んでも少ししか出ない、毎日出るけど残便感がある...。これらはすべて便秘で症状によってさまざまな原因があります。3ヶ月以上便秘の症状がある方は、慢性便秘症という病気かもしれません。早めに病院へ相談しましょう。

病院検索

便秘治療が相談できる病院が検索できます。

ひどい便秘でお困りの方は、病院で受診するのがおすすめです。
医師による適した治療を受けることが、便秘を解消する一歩になります。

監修

横浜市立大学附属病院

中島 淳 先生

横浜市立大学大学院医学研究科・肝胆膵消化器病学教室 主任教授、診療科部長。医学博士。
1999年から2001年までハーバード大学客員准教授を務め、腸管免疫の研究にあたる。医療従事者向けの「慢性便秘症診療ガイドライン」作成メンバーとして尽力し、海外の便秘薬や最先端治療に精通。
※2022年12月現在の情報です。