実はいろいろある!便秘薬の種類と作用。体への影響も医師が解説。
病院で処方されたり薬局で市販されている便秘薬には、さまざまな種類と作用があります。さらに、近年では新薬の登場によって便秘の治療方法も変わりつつある⁈
監修 横浜市立大学附属病院 中島淳先生
世界の便秘薬の歴史
古代エジプトでは、「食べ物から病が入る」と考えられ、排便は健康であることの証として重視されていたそう。世界最古の医学文書「エーベルス・パピルス」には、センナやアロエなどが下剤として収録されています。特に、センナはヨーロッパ地域の人々の間で、お通じに効く薬として幅広く活用されていたようです。
センナ
アロエ
中国では最古の薬物書「神農本草経」にダイオウ(大黄)が記録されていたり、日本では江戸時代に「便秘はお腹に溜まった砂のせいで起き、蒟蒻を食べると砂が下り、便秘が解消する」という言い伝えもあります。
ダイオウ
蒟蒻
このように、便秘は昔から世界中の人々の間で健康を害する病気のひとつだったようです。また当時から薬として使われていきた、センナ・アロエ、ダイオウ(大黄)などは、現代でも便秘薬として活用されています。
便秘は現代の病気ではなく、長い歴史の中で世界中の人がつき合ってきた身近な病気なのです。
これまでの便秘薬の
種類と作用
便秘を治療するために、病院で処方したり薬局などで市販されている薬には、さまざまな種類と作用があります。
これまで日本では、主に便を柔らかくする薬(浸透圧性下剤)と腸を刺激する薬(刺激性下剤)の2種類の薬が使われてきました。
便を柔らかくする薬浸透圧性下剤
作用
便の水分量を増やすことで柔らかくなり、排便しやすくする。
メリット
習慣性がほとんどなく長期にわたって服用できる。
デメリット
酸化マグネシウムの場合、長期的に服用を続けると、
腎臓に負担がかかり高マグネシウム血症になる可能性がある。
- 塩類・糖類下剤
- 腸内の浸透圧を高くして腸管に水分を移行させて、便の水分含量を増やし軟らかくする。
- ポリエチレン
グリコール - 水分を保持したポリエチレングリコールが便に水を運び、便を軟らかくする。
豆知識
酸化マグネシウムは200年の歴史がある⁈
便を柔らかくする薬の一つ「酸化マグネシウム」は、1823年ドイツ人医師シーボルトがオランダから日本に持ち込んだ薬「麻倶涅矢亜(マグネシア)」が由来。彼の弟子によって使用法が各地の医師に広められて以来、約200年にわたって使用されていることで知られています。
腸を刺激する薬刺激性下剤
作用
大腸を直接刺激して、ぜんどう運動を促すことで排便しやすくする。
メリット
即効性と排便後スッキリ感があるため市販薬でも多く使われている。
デメリット
長期的に服用を続けると大腸が刺激に慣れてしまい、依存性や耐性がつき効かなくなるリスクもある。
豆知識
便秘薬は、美容やダイエットにも活用できる?
便秘薬(刺激性下剤)を便秘治療のためではなく、無理やり便を出してお腹を凹ますなど美容やダイエット目的として多用してしまう人がいるようです。
腸が正常な人が下剤を常用すると、下痢と同じような状態になります。下痢になると、食物の栄養を小腸から吸収する前に排出してしまい、体に必要な栄養が吸収されません。
さらに栄養不足の状態が続くと、体内の細胞に活気がなくなり、お肌や髪が乾燥しハリ・ツヤがなくなるなど美容に悪影響を及ぼしてしまうことも。ほかにも下痢によって体内の水分が排出し過ぎて起こる、脱水症状や低カリウム症などさまざまなリスクがあります。
便秘薬は正しい目的と使用法を充分に理解することが大事です。規則正しい生活と栄養バランスのある食事から腸内環境を整えることが、美容やダイエットの近道と考えられます。
近年の便秘薬
これまで日本の便秘治療は新しい便秘薬の開発が進まなかったため、海外の医療に遅れを取っていました。しかし2017年に日本で初めてとなる「慢性便秘症診療ガイドライン」が発刊され、排便”回数”だけでなく排便の”質”を重視した便秘治療が進んでいます。
さらに、従来の薬とは働きが異なる新しい便秘治療薬が開発・承認され、子どもから高齢者まで体質や症状に合わせて薬を選択できるようになりました。
近年登場した便秘薬には、小腸の腸管上皮細胞に作用する上皮機能変容薬(腸液分泌促進薬)と胆汁酸に作用する胆汁酸トランスポーター阻害薬の2種類あります。
便を柔らかくする
腸に刺激をあたえる薬
①上皮機能変容薬、浸透圧性下剤
作用
小腸の腸管上皮細胞のイオンチャネルに刺激を与えて、腸の水分分泌を促す。
②胆汁酸トランスポーター阻害薬
作用
小腸で胆汁酸の吸収を抑えることで便の水分を増やし、腸の動きも促す。
便秘も病気のひとつ。
病院で適切な診断・治療を受けることが大事!
このように便秘を治療する薬にはさまざまな種類と作用があるため、自己判断だけで薬を選ぶのは難しいでしょう。便秘も立派な病気として、早めに病院へ受診し、医師と相談しながら適切な薬を処方してもらうことをおすすめします。
また事前に便秘の治療方法を知っておいたり、受診の際には便秘の症状を医師にしっかり伝えることで、より適した薬を服用しながら便秘を治療することができます。
便秘治療が相談できる病院が検索できます。
ひどい便秘でお困りの方は、病院で受診するのがおすすめです。
医師による適した治療を受けることが、便秘を解消する一歩になります。
- 監修
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横浜市立大学附属病院
中島 淳 先生
横浜市立大学大学院医学研究科・肝胆膵消化器病学教室 主任教授、診療科部長。医学博士。
1999年から2001年までハーバード大学客員准教授を務め、腸管免疫の研究にあたる。医療従事者向けの「慢性便秘症診療ガイドライン」作成メンバーとして尽力し、海外の便秘薬や最先端治療に精通。
※2022年12月現在の情報です。