変わる便秘治療

便秘になるとどんなことが起こる?体への影響と腸内のしくみを解説。

お腹が張って臭いおならが出たり、体がだるくイライラするのは便秘のせい? 便秘の時、腸の中はどうなるの? 便秘が及ぼす影響について、詳しく説明していきます。

監修 横浜市立大学附属病院 中島淳先生

便秘になると体はどうなるの?

「便秘は万病のもと」ともいわれるように、便秘になると体の中にさまざまな影響が現れます。
便秘になって悩んだり不安にならないために、どんな不調や変化が起こるのか、主な症状や病気を知っておきましょう。

体にさまざまな不調が現れる

  • お腹の異常

    便秘は便が腸内に溜まってしまう状態のため、お腹の調子が悪くなることが多く見られます。お腹がパンパンになっておならがくさいなら、便やガスが溜まっている証拠です。放っておくと胃の働きが悪くなり食欲も低下することもあります。

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  • においのトラブル

    便秘で排泄物が腸にとどまり腸内環境が悪化すると、体内で腐敗物質が発生しやすくなります。したがって血液中の有害物質が、皮膚や呼気によって排出されると体臭や口臭になってしまう場合もあります。

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  • お肌のトラブル

    便秘になると、お肌が乾燥したり吹き出物やニキビができやすくなります。便秘で大腸に長時間便が残っていると、腸内で便の腐敗が進み悪玉菌が増えてアンモニアなどの有害物質が発生します。有害物質は血液中に栄養素と一緒に取り込まれ、皮膚のターンオーバー(代謝)をさまたげてしまう場合もあります。

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  • 太りやすい体質

    肝臓で栄養素を代謝したり吸収するためにはエネルギーが必要になります。しかし便秘によって発生した血液中の有害物質を取り除くことにそのエネルギーが浪費されるため、体の基礎代謝は低下して、結果的に太りやすい体質になってしまう場合もあります。

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  • 疲労感とストレス

    お腹が張ったり腸の状態が悪いと、体が重く感じて疲れやすく、憂うつな気持ちになってしまうことも。動くのが億劫になって、ついゴロゴロしたりする習慣がつくと運動不足で便秘がますます悪化するという、悪循環に陥ってしまう場合もあります。

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  • 免疫力低下

    腸の働きのひとつに、腸管免疫という体外から細菌やウイルスを侵入させないようにする仕組みがあります。しかし悪玉菌が増加し腸内環境が悪化すると、腸管免疫が機能しなくなるため免疫力が低下し、感染症にかかりやすくなる場合もあります。

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他の病気を引き起こす可能性も

便秘を放っておいたり症状が悪化したりすると、腸や肛門に関する病気を引き起こすリスクがあるので注意しましょう。

腸閉塞(イレウス)

腸閉塞は、大腸や小腸などの消化器官である腸管が詰まってしまい閉塞される病気です。
腸管が閉塞されることにより、食べたものや胃液、腸液、ガスなどが腸内に溜まり、おなかの痛みをはじめ吐き気や嘔吐など、さまざまな症状を引き起こしてしまいます。

切れ痔(裂肛)

切れ痔は、便秘で硬くなった便が肛門を通過するときに、肛門の皮膚が切れたり裂けたりすることで起こり、排便時に強い痛みが生じる病気です。
「切れ痔(裂肛)」は、力んで肛門に負担をかけてしまうと「イボ痔(痔核)」になる可能性があります。

虚血性腸炎

虚血性腸炎は、便秘などによって腸管内圧が高まり大腸に血が循環しない状態(虚血)になることで、炎症や潰瘍が生じる病気です。
腸壁は非常に薄く、たくさんの血管が流れているため、便が滞ると腸壁が圧迫され、血流障害が起こりやすくなります。

病院検索

便秘治療が相談できる病院が検索できます。

ひどい便秘でお困りの方は、病院で受診するのがおすすめです。
医師による適した治療を受けることが、便秘を解消する一歩になります。

便秘になると腸内の環境も乱れる

便秘になると便通不良になってお腹が張ってつらいだけではなく、腸にととどまった便が腐敗し、有害物質が発生します。
すると、さまざまな細菌が生息する腸内環境は悪玉菌が優勢になり、腸内環境のバランスが崩れてしまいます。
腸内には「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌」の3つのタイプに分類される
1000種類100兆個もの細菌が生息しており、その集合体を「腸内フローラ」といいます。

善玉菌とは?

善玉菌は、悪玉菌の増殖や定着を防いで感染を予防したり、有害な物質を体外へ排出する、体によい菌です。

【代表例】

乳酸菌

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ビフィズス菌

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酪酸菌

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悪玉菌とは?

悪玉菌は、その名の通り腸内の腐敗を促進して、便秘や下痢などの便通異常や免疫力の低下を促す、体に害を与える菌です。

【代表例】

ウェルシュ菌

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大腸菌

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黄色ブドウ球菌

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日和見菌とは?

日和見菌は、体の調子や腸内の状態によって、良くも悪くも作用する菌です。元気なときや善玉菌が増えるとよい菌として働きますが、悪玉菌が優勢になると悪い菌へ変化します。

【代表例】

バクテロイデス

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大腸菌(無毒株)

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連鎖球菌

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腸内で悪玉菌が増えると、さらに便秘になりやすい

善玉菌と悪玉菌は、いつも腸の中で戦っています。そして悪玉菌は腸内だけではなく、全身に影響を及ぼします。体温がある腸の中で便が留まってしまうと腐敗が進み、悪玉菌が増殖。悪玉菌は悪臭を放つ有害物質をつくり出していき、便秘が悪化したり長引いてしまうことがあります。

善玉菌と悪玉菌のバランスを整えるには?

便秘を予防・解消するためには、腸内の善玉菌と悪玉菌のバランス・腸内フローラを整えることが大事です。 腸内フローラは、食事をはじめ運動や睡眠などの影響で変化していきます。したがって、普段の食生活を見直し適度な運動を行う、ストレスがたまらない生活を心がけるなど、普段の生活習慣を見直すことが、便秘を解消する第一歩になります。

食生活で腸の環境を整える
毎日の食事を少しアレンジするだけでOK、腸に優しい料理を栄養士が伝授。

身体を動かして腸を元気にする
毎日ちょっとした空き時間にできるお通じ体操を、健康運動指導士がレクチャー。

生活習慣を見直して
便秘を解消するために、家族と一緒に毎日の生活習慣から見直してみましょう。

実は、便秘は”生命”にも関係がある?

便秘によって体にさまざまな不調が現れることがわかりましたが、便秘の影響はこれだけではありません。
実は、便秘は生命にまで影響を及ぼすことがあるようです。

便秘と生存率

便秘の人と便秘でない人の生存率を比較したアメリカの研究によると、調査をはじめて15年後には便秘の人の生存率が2割以上低下していたと報告されました。

【 便秘症の有無による生存率の比較 (海外データ)

Chang JY, et al Am J Gastroenterol. 105(4):822-832,2010.

この研究より、便秘は生命にかかわる病気であることがわかりました。
「私、便秘かも?」と思った方は、たかが便秘と思って放置せずに
かかりつけの先生に相談してください。

排便回数と死亡リスク

さらに、40歳~79歳の日本人男女45,112人を対象に、便秘と心臓や血管に関する病気の関係性について約13年間調査した国内の研究では、1日あたりの排便回数が少ないと脳卒中や循環器の病気で命を落とすリスクが高まることが報告されています。そして、そのリスクは1日あたりの排便回数が少ないほど高まります。

【 排便回数と脳卒中/循環器疾患による死亡との関係性 】

Kenji Honkura, et al., Atherosclerosis, 2016; 256:251-256より作図

便秘の状態で排便時にやりがちな「いきみ」は、血圧が上昇して血管に負担をかけてしまいます。特に、高齢者はもともと血圧が高めな方が多いので注意が必要です。日頃から便が硬くて出にくいと感じている方は、かかりつけの先生に相談しましょう。

まとめ

たかが便秘、されど便秘

便秘が生命と関係があるというのは意外だったのではないでしょうか?しかし、ご紹介したとおり、便秘に伴い排便時にいきむと血圧が上昇し、脳卒中や循環器の病気のリスクを高めてしまいます。「便秘は体質」と放っておかずに、あなたや身近な人の生命に関わる病気として、日頃から体調の変化に注意しておくことが大事です。

病院検索

便秘治療が相談できる病院が検索できます。

ひどい便秘でお困りの方は、病院で受診するのがおすすめです。
医師による適した治療を受けることが、便秘を解消する一歩になります。

監修

横浜市立大学附属病院

中島 淳 先生

横浜市立大学大学院医学研究科・肝胆膵消化器病学教室 主任教授、診療科部長。医学博士。
1999年から2001年までハーバード大学客員准教授を務め、腸管免疫の研究にあたる。医療従事者向けの「慢性便秘症診療ガイドライン」作成メンバーとして尽力し、海外の便秘薬や最先端治療に精通。
※2022年12月現在の情報です。