便秘の診察で患者さんから聞き出すべきポイントとヒアリングシート

ここがポイント
  • 患者さんから症状を聞き出すコツは、オープンクエスチョン型の質問
  • 慢性便秘症の3大愁訴は「排便回数の減少」「排便困難感」「残便感」
  • 便秘症状を把握するヒアリングシート:【ダウンロードあり】

診察では、「便秘」という言葉だけにとどまらず、患者さんがどういう症状に困っているかを聞き出すことが肝要です。なぜ、便秘だと訴えているのかを理解し、そのうえで、排便習慣や状態を把握する質問やオープンクエスチョンを用いた聞き出し方で、患者さんが抱いているイメージを引き出します。

監修大船中央病院 上野文昭先生

便秘の診察で聞くのは、
排便回数だけでは不十分である。

便秘の診察で聞くべきこと

医師は、患者さんが便秘で困っているというと、排便回数だけを聞いてしまいがちです。それだけでは不十分と言わざるを得ません。
排便回数のほかに、

  1. 「いきまないとなかなか出ないのか」
  2. 「便の硬さ、状態はどうか」
  3. 「排便しても残便感があるか」
  4. 「便が詰まった閉塞感はあるか」

などを質問し、詳細な症状を把握することが重要です。
また、患者さんの言葉は医学用語に置き換えず、そのまま記録することが大切です。例えば、患者さんの「モヤモヤした不快感」という言葉を医学用語に置き換えてしまうと、「腹部不快感」等になります。しかし、その記録を見た別の医師が、「腹部不快感」を「便秘」という疾患と組み合わせて、異なる解釈をしてしまい、「膨満感」等の別の言葉に置き換えてしまうことがあります。それを繰り返していくと症状の意味が変わってしまう可能性が出てきてしまいます。患者さんの言葉は翻訳せず、そのまま記録に残しましょう。

患者さんから症状を聞き出すコツは、オープンクエスチョン

患者さんから症状を聞き出す際には、Yes、Noで答えることができてしまうのではなく、回答範囲を限定しないオープンクエスチョンで質問を始めます。例えば、「便に血がつきますか?」ではなく「便にどのくらい、どのように血がつきますか?」、「お腹が痛くなりますか?」ではなく「どんなときに、どのようにお腹が痛くなりますか?」といった質問です。オープンクエスチョンが3に対してクローズドクエスチョンを1くらいの割合で行うと、患者さんの状態のイメージをつかむことができます。イメージがつかめたら、医師主導のクローズドクエスチョンで診断を絞っていくという過程に行きます。

クリニックの医師は時間がないという課題がありますので、「日常の診療で使えるだろうか」という懸念が挙がることがありますが、これは「日常の診療でも使える」質問方法だと言うことができます。オープンクエスチョンで質問すると、診察時間の7割ほどは患者さんが話す時間になります。ところが、患者さんは多くの医療情報を持っているわけではありませんので、結果、症状について話す時間は短時間になります。「毎日のお通じはどうですか?」と今日の天気を聞くように質問することで、クリニックの日常診療が変わっていくのではないでしょうか。

慢性疾患の患者さんには、必ず便通に関する質問を

かかりつけ医では、便秘を主訴とする患者さんだけでなく、慢性疾患の患者さんにも、必ず便通についての質問をしていただきたいです。特に、降圧剤のカルシウム拮抗薬、ベンゾジアゼピン系抗不安薬や睡眠薬を服用している患者さんは、便秘を起こしやすくなりますので注意が必要です。
便通の質問は食事と同じぐらい重要です。「ごはんおいしく食べていますか?」という質問とセットで、「便通はどうですか?毎日ありますか?」と聞くようにしましょう。

患者さんが排便で困っていることを把握する、問診項目とヒアリングシート

慢性便秘症の3大愁訴

慢性便秘症の患者さんは、単一の症状で訴えることは少なく、軽度で不明瞭な多様な症状を訴えることがほとんどです。代表的な症状として、「排便回数の減少」「排便困難感」「残便感」の3つがあります。
「排便回数の減少」は便の回数や量の減少により腹部に不快感が出るため、患者さんは大腸に何か疾患があるのではないかという心配が生じます。排便は毎日必ずあるべきだと考えを刷り込まれていて、それより少ないと不安となる方もいます。

また、「排便困難感」は、排便が思うようにいかずつらいという直接的な訴えです。「残便感」は、痛さなどの身体的苦痛はほとんどないものの、排便後もまだ便が残る感覚があるなど、スッキリしない嫌な感じがするという状態です。医師は慢性便秘症にはさまざまな愁訴があることを理解し、患者さんと信頼関係を築きながら診療を継続していくことが必要となります。

患者さんの状態把握に有用なブリストル便形状スケール

診察では、ブリストル便形状スケールを使用するとよいでしょう。ブリストル便形状スケールは、便形状を7段階のイラストで示した、便の形状や硬さを評価する世界基準のツールです。便形状を患者さんに口頭で説明してもらうのは大変ですが、ブリストル便形状スケールを示しながらどれに当たるかを確認するとわかりやすく、医師と患者さんがお互いの共通認識を持つことができます。患者さんの便のイメージを持つことは非常に重要なのです。当然、実際に患者さんの便を見ることは難しいので、イメージを持つためにブリストル便形状スケールを用います。ブリストル便形状スケールは診察ブースの机の引き出しに用意しておくとよいですね。

ブリストル便形状スケール
1〜2:硬い便、3〜5:健康な便、6〜7:軟便、めざすのは4のバナナ状のウンチ

Lewis SJ, et al.: Scand J Gastroenterol 1997; 32(9): 920-924 より作成

問診項目

慢性便秘症の訴えは多様かつ主観的で、患者さんそれぞれで表現が異なりますので、症状の聞き取りは多数の項目を客観的に聴取することが大切です。

1発症時期 ・・年・・月頃から、・・力月前から、およそ・・年前から、など
2排便頻度 平均して1週間に・・回程度・・ 日間に一度程度、など
3便の性状 硬さ(ブリストル便形状スコアを用いて)、色調、便柱の太さ、など
4自覚症状 腹痛、腹部膨満感、腹部不快感、残便感、腹鳴、悪心、食欲不振、など
5症状の頻度 ほぼ毎日、・・日間に一度程度、不定期に、ほとんどない、など
6既往歴 腹部手術歴、代謝・内分泌疾患、神経変性疾患、精神的疾患、など
7常用薬 抗精神薬、抗ヒスタミン薬、オピオイド薬、利尿薬、金属イオン製剤、など
8生活状況 良好な食事を摂っているか、十分な睡眠時間か、ストレスは多いか、など
9QOLの障害度 身体的QOLと精神的QOL

出典:中島淳編(2015)『臨床医のための慢性便秘マネジメントの必須知識』医薬ジャーナル社

ヒアリングシート

上記の問診項目をまとめたヒアリングシートのダウンロード版をご用意しました。以下のボタンからダウンロードしてご活用ください。

  • ※ダウンロード版はA4 PDFとなります。

監修:尾髙内科・胃腸クリニック 院長 尾髙 健夫先生

監修

大船中央病院 特別顧問
東海大学医学部内科 客員教授

上野 文昭 先生

Tulane大にて卒後研修課程を修了し、米国内科専門医資格取得。東海大医学部内科などを経て、2004年より現職。厚労省研究班、日本消化器病学会で炎症性腸疾患診療ガイドライン作成責任者を務めた。また、米国内科学会(ACP)日本支部長、同国際評議員、米国消化器病学会(ACG)国際関係委員会議長などを歴任。
※2019年3月現在の情報です。