
便秘の治療方法
近年、便秘の新薬が続々と登場し、便秘治療に明るい兆しが見えています。これからの新しい便秘治療薬と便秘薬の選び方について、医師が徹底解説。
監修 横浜市立大学附属病院 中島淳先生
便秘治療に明るい兆しとはどういったことでしょうか。
日本では、2012年に32年ぶりに便秘の新薬が発売され、続いて2017年、2018年にも便秘の新薬が登場しました。
また、2017年に医療従事者向けの「慢性便秘症 診療ガイドライン」が発行されたことにより、長年、悩まされてきた便秘を解消することはむずかしくなくなってきました。
これからの慢性便秘症の治療の質の変化が期待されると思います。
治療の質の変化とは具体的にどういったことでしょうか。
これまでは、便秘治療をするにしても2つの作用の薬剤しかなかったため、お腹が痛くなっても、便がゆるくなっても、「出ればいい」が治療のゴールでした。
毎日出ても下痢便ではQOLは下がります。
新しく出たお薬の中には、今までとは異なる作用機序の薬剤も複数出てきましたので、従来の治療薬とも組み合わせることで薬物治療の選択肢が増えました。また、「慢性便秘症 診療ガイドライン」が発行されたことで、「より快適な毎日を可能にする質の高い便秘治療」が目指せるようになりました。
これからの便秘治療では、1分以内に直腸の便のすべてがするりと出る「迅速かつ完全なる排便」を目指すことが望まれると考えます。便秘の程度や原因によっては治療を始めてもすぐにそのような状態になるのはむずかしいかもしれません。それでも治療をしていくにつれて少しずつ便の状態が良くなっていくことで、忘れていた快便の感覚をとりもどしていただくというのが、便秘治療の大きな目的と言えます。
便秘のお薬にはどのようなものがあるのでしょうか。
便秘治療薬には大きく分けて、2つの作⽤があります。①腸内の⽔分を保ち、便をやわらかくする作⽤のもの、②腸の動きを活発にして排便を促す作⽤のものです。お薬によっては③両⽅の作⽤があるものがあります。
便をやわらかくする作用
排便を促す作用
自分にあった便秘薬はどのように選べば良いでしょうか?

便秘薬を選ぶ際には、便秘のタイプや今かかっている病気などを考慮する必要があり、選択を間違えると、場合によっては、便秘を解消するどころか悪影響を及ぼすこともあります。
例えば、大腸を刺激して排便を促す下剤の中には、依存性、習慣性から、繰り返し使うと耐性が起こって、薬を飲んでも効果が得にくくなる薬剤耐性がある薬もあり、長期間の使用は避ける必要があります。反対に効き目が穏やかで習慣性や依存性もないとされる腸内の水分を保ち便を軟らかくするお薬でも腎機能が悪い人は注意が必要な場合があります。これらは、薬局やインターネットでも購入できてしまいますが、自己判断で長期間使用するのは避け、かかりつけの医師に相談しましょう。
また、ほかの病気の薬で便秘になることもありますので、今飲んでいるお薬についても医師に相談するとよいでしょう。
病院で処方される薬ではどのように治療が進むのでしょうか?
病院での治療の場合は、まず、初期治療ではお薬を処方して1週間ほど様子をみていただきます。そうするとだいたい1/3の方は効きますが、1/3 は下痢になり、1/3は効かない方が出てきます。
下痢の場合はお薬の量を調整したり、効かない場合はお薬の量を増やしたり、働きの異なるお薬に変えたり追加するなどして様子をみます。
その後、患者さんの満足のいく質の高い治療に向けてお薬を調整していきます。便秘薬は、効きすぎても下痢になりますので、お薬の量を調整していくことが、便秘治療においてとても大切な作業となります。
病院で処方される薬は強すぎると思っている方もいるかもしれませんが、そんなことはありません。薬局で購入できないマイルドな薬もありますし、処方に注意が必要な高齢者や子供にも使用できる薬など、一人ひとりに合わせた使い分けができる薬も増えました。効き目が比較的強い薬もありますが、薬の種類によっては、食前・食後など使用タイミングで効果や副作用が変わる場合があります。
医療機関では症状にあった治療薬が考慮されますので、便秘で悩んでいる方や市販の便秘薬を長期に服用していても便秘症状が改善されない場合は、医師に相談してみましょう。

- 監修
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横浜市立大学附属病院
中島 淳 先生
横浜市立大学大学院医学研究科・肝胆膵消化器病学教室 主任教授、診療部長。医学博士。
1999年から2001年までハーバード大学客員准教授を務め、腸管免疫の研究にあたる。医療従事者向けの「慢性便秘症診療ガイドライン」作成メンバーとして尽力し、海外の便秘薬や最先端治療に精通。
※2021年4月現在の情報です。