できれば薬に頼りたくありません。

できれば薬には頼りたくありません。

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    70代男性の相談

    便秘に悩んでいます。できれば薬には頼りたくありません。下剤を使わずに便秘を対策する方法があれば教えてください。
    (相談者:70代 男性)

    中島先生 監修医ワンポイント解説

    試しやすい方法として、食事の際に油の摂取を意識する、便器に座る際にお腹に力が入りやすいよう踏み台を置き足をのせて前傾姿勢をとってみる、などの方法があります。それでもすっきりとした排便が得られなかったり、1分以上いきまないと排便できないなどであれば、医師に相談することをお勧めします。

    朝、「スプーン1杯の油」をとるように心がける

    今回の相談者は、70代の男性ですね。男性ではとくに60代以上で便秘に悩む方が多くなります。この年代は、多くが定年を迎え生活が一変します。家から出る機会が減ったり、生活リズムが不規則になるなど、生活環境が変化します。さらに加齢による筋肉や大腸の機能低下などもあり、便秘になりやすくなるのです。

    便秘対策としてよく知られているのは、食物繊維を含む食事をとるよう心がけること、適度な運動、水分をこまめにとるなど生活習慣の改善です。これらに加えて、私がよくお勧めするのは、朝スプーン1杯程度の油を摂取することですベーコン、バター、マヨネーズなどの油分でもよいのですが、油をほどよく使った料理を食べると、胃腸の動きがよくなります。私の患者さんには、ご飯にバターをのせて醤油をかける「醤油バターご飯」を食べている方が何人かいますよ。無理なく続けられる好みのやり方で、試してみるのがよいと思います。
    ※脂質制限など食事制限を受けている方は主治医に相談するようにしてください。
    ごはんの上にバターと醤油が掛かっているイラスト

    「トイレ用踏み台」を置いて踏ん張れるトイレに

    とはいえ、シニアでは食事に気をつけ、水分をこまめにとり、適度な運動を、と言われても、実践するのが難しいこともあるでしょう。そこで導入しやすいのが、排便環境を整えること、とくに床から便器までの高さの調整です(洋式トイレの場合)。

    近年、日本人の平均身長が伸びていることに伴い、昔に比べ座面の高いトイレが増えてきています。人によっては、座面の高いトイレでは足がぶらぶらしたり、突っ張ったりして、お腹に力が入りづらいことがあるのですが、その問題を解決してくれるのが踏み台です。踏み台に足をのせて座面に座ることで、踏ん張りがきく理想的な姿勢である「前かがみの背中と太ももの角度が35度の姿勢」がとりやすくなります(図)。実際、踏み台を使うことで7割の方で排便時間が短くなり、9割でいきむことが減ったという米国の研究結果も報告されています(海外データ*1 )。小柄な人はもちろん、そうでない人でも気軽に取り入れられますので、一度試してみるのもよいと思います。
    理想的な排便姿勢イラスト

    「1分以上いきまないと出ない……」、そんなときは病院へ

    一方で、踏ん張れるからといって、便を出そうと長時間がんばりすぎてはいけません。シニアでは、便を出そうといきむことで血圧が上がり、排便から30分も収縮期血圧が高い状態が続いたというデータもあります*2。これは高血圧の有無にかかわらず、加齢とともに大なり小なり動脈硬化で血管が硬くなっているシニアにとって、脳卒中や心筋梗塞の危険性が高まることを意味します。1分以上いきまないと便が出ないようであれば、一度かかりつけの医師に便秘について相談したほうがよいでしょう。
    いきむことの危険性
    病院のイラスト

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    「もっと早く病院に行けばよかった」と後悔しないために

    医療機関では、病気や薬の副作用による便秘を除外したうえで、生活習慣の指導や薬による治療を行います。私の場合は通常、まず患者さんのつらい症状をとることを優先し、薬を用いて便通のコントロールを行い、並行して生活習慣の対策を指導しています。薬は患者さんに合ったものを状態に合わせた量などに調整していき、下痢でもコロコロの便でもない、気持ちよくすっきりと排便できる状態を目指します。また、便秘に伴う腹痛やお腹のハリなど不快な症状に対しては、漢方薬などを用いて対応しています。

    患者さんは「もっと早く病院に行けばよかった…」と、口をそろえておっしゃいます。さまざまな便秘対策を行い、それでもどうにもならなくて受診されている方が多いのが現状ですが、いったん受診すればつらい症状を取り除く治療が開始できます。加えてやはり、早期のほうが治療の効果は出やすいのです。

    また、病気が原因で便秘になっている場合もあり、受診が病気の診断につながることがあります。大腸がんによって便秘になる場合もありますし、そのほかにも、たとえば神経系の病気であるパーキンソン病では、便秘がそのほかの症状より早くあらわれるケースが多いことが知られており(海外データ*3)、実際、便秘の訴えがきっかけでパーキンソン病の診断がついた患者さんもいます。

    便秘はただ単に便が出ない状態ではなく、病気の症状である可能性もあり、脳卒中のリスクになりうるもの、と考えるべきです。「薬は使いたくない」と意固地にならずに、生活習慣を対策してもすっきりとした排便が得られない場合には、我慢せず医師に相談してください。
    *1 Modi RM, et al. J Clin Gastroenterol. 2019 Mar, 53(3), 216-219.
    *2 赤澤寿美ほか, 自律神経, 2000, 37, 431-439.
    *3 Schrag A, et al. Lancet Neurol. 2015 Jan, 14(1), 57-64.

    便秘対策に、いつもの朝食に油をプラスオン

    回答の中で、“油をほどよく使った料理を食べると、胃腸の動きがよくなる”ことと、メニューの一例として「醤油バターご飯」をお伝えしました。好きな人には好評のメニューですが、それ以外にもおいしくて気軽に始められる『油をプラスオン!朝食メニュー』をご紹介します。ぜひ、毎朝の習慣に取り入れてみませんか。

    パン派にはいつものパンにバターをプラスオン

     

    ご飯派には納豆にごま油をプラスオン

     

    ヨーグルト派にはいつものヨーグルトにオリーブオイルをプラスオン

     

    ※脂質制限など食事制限を受けている方は主治医に相談するようにしてください。

    監修:中島淳先生
    病院のイラスト

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    監修者(中島先生)

    監修

    国際医療福祉大学 消化器内科統括教授 熱海病院 病院長 中島 淳 先生 

    1999年から2001年までハーバード大学客員准教授を務め、腸管免疫の研究にあたる。医療従事者向けの「便通異常症診療ガイドライン2023」作成メンバーとして尽力し、海外の便秘薬や最先端治療に精通。医学博士。
    ※2025年5月現在の情報です。

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