シニアの便秘
新型コロナの影響で運動不足になり便秘に…
70代女性の相談

新型コロナウイルスの影響で運動不足です。特に緊急事態宣言中はほとんど家にいて運動をしなかったせいか、便秘になってしまいました。便秘と運動不足はどの程度関係があるのでしょうか?関係があるなら、便秘対策におすすめの運動も教えてください。
(相談者:70代 女性)

中島淳
先生
運動不足が便秘の原因になることはあります。運動不足の自覚がある場合は、日常生活の中に運動を組み入れてみることをおすすめします。無理な運動をしないことと、運動を習慣化してしまうことがポイントです。ただし、便秘の原因は運動不足だけではありません。場合によっては、医師に相談することも大切です。

便秘と運動には密接な関係がある

必ずしも運動だけが便秘の原因というわけではありませんが、便秘と運動には密接な関係があります。理由のひとつが、自律神経の働きです。ご存じのように自律神経には交感神経と副交感神経があり、交換神経には血圧や脈拍を上げる、副交感神経には血圧や脈拍を下げるといった働きがあります。その自律神経に腸の動きも支配されていて、交感神経が腸の動きを止め、副交感神経が腸の動きを促します。運動中は交感神経が優位になるため腸自体は動きませんが、運動が終わるとともに自律神経のスイッチが切り替わって副交感神経が優位になり、腸が活発に動き出し排便を促すというわけです。また、運動を継続的に行うことで、交感神経と副交感神経の切り替えのメリハリが利いてきて、運動後に副交感神経がより活性化するようになります。当然、運動不足ではこのような効果は得られません。

「運動後は副交感神経が活性化され、腸が活発に動くようになる」イラスト

筋力の低下で便を出し切れなくなることも

運動不足による筋力の低下も、便秘の原因に挙げられます。直腸にたまった便を押し出すには腹筋と、恥骨直腸筋や肛門括約筋を含む骨盤底筋群といった筋肉がある程度必要になります。実際、便秘で悩んでいるシニアや女性の中には、腹筋が弱いせいで腹圧がかけられずに便を出し切れないという方もいます。

相談者の方は70代ですよね。60歳を過ぎてくると、加齢による筋力低下も起きてきます。加齢による筋力低下はある意味仕方がないことですが、そこに運動不足が加わると、便秘の症状がいっそう進んでしまうことも十分に考えらえます。

「運動不足による筋力低下、加齢による筋力低下により便秘症状が進む」イラスト
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ひどい便秘でお困りの方は、病院で受診するのがおすすめです。
医師による適した治療を受けることが、便秘を解消する一歩になります。

ケガのリスクもあるため、無理な運動はしないことが大切

便秘と運動には密接な関係があるとお伝えしましたが、取り入れる運動については注意が必要です。特にシニアの場合、体力の低下、転倒による骨折のリスクなどもあり、また、ジョギングなどのはげしい運動では、膝や腰を痛めてしまう恐れもあります。そのため、無理な運動はしないことが大切で、まずは「歩く」ことから始めるのがよいと思います。

例えば、日常的にバスを使っているのであれば、いつもより1つ先のバス停で乗る、または降りるようにして、バス停1個分を余分に歩くという習慣を作ってみてはどうでしょうか。「よし、がんばるぞ!」とジム通いを始めるのもいいですが、長続きしないケースも多いと思います。運動の目的が体重を減らすのであれば、それなりの運動量が必要になるかもしれませんが、排便に関する筋肉をつけて便秘を対策するのであれば、日常生活の中に無理なく取り入れられる運動で十分だと思います。大切なのは、運動をがんばることではなく、習慣化することです。自宅で気軽に行える便秘対策に役立つ運動もあるので、ぜひ試してみてください。
※下部のコラムで『自宅で気軽にできるお通じ体操』を紹介しています。

階段の上り下りもおすすめ、ただし「下り」は注意が必要

歩くことの延長になりますが、「階段の上り下り」もおすすめです。スーパーマーケット、ショッピングモール、デパート、駅などのエスカレーターやエレベーターをなるべく使わないようにし、例えば4階に行く場合は3階までエレベーターで行き、残り1階分は階段で上るという方法です。自宅がマンションの場合も同様です。太ももから骨盤の筋肉を使いますし、腹筋にも効きます。無理なく日常生活に取り入れることもできると思います。

ただし、「下り」には注意してください。体力的には下りよりも上りのほうがきついため下りから始める方もいますが、階段は下りのほうが転びやすいためおすすめしていません。まずは上りの1階分だけを自分で上るようにして、下りるときはエスカレーターやエレベーターを使うようにしてください。そして運動習慣がしっかりと身につき、体力にも自信がついてきたら、上りの階数を増やしたり、手すりを持つなど十分に配慮したうえで下りを取り入れてみるのはどうでしょうか。
※転倒が心配な場合は、下りは無理して取り入れないでください。

「エスカレーターやエレベーターをなるべく使わないようにして階段を使いましょう」イラスト

運動を続けても便秘が改善しないときは医療機関を受診

便秘はさまざまな原因で起こるため、運動不足だけを解消しても便秘が改善されないことは当然あります。このような場合は、早めに医療機関を受診することも大切です。便秘は時間が経つにつれて、治療が難しくなることがあるからです。例えば、風船に空気を少しだけ入れて抜いたら元の状態に戻りますが、空気をパンパンに入れて膨らませたら空気を抜いても元の状態には戻りません。それと同じように、便秘が長く続くと大腸内がつねに便をパンパンにため込んだ状態になっているため、大腸が伸びきってしまい元の状態に戻らなくなってしまうのです。

また、「いきむ」ことのリスクもあります。便が出ないからといって無理やりいきんで出そうとすると、血圧が急上昇して、その結果、脳卒中や心筋梗塞を招いてしまう恐れがあります。特にシニアは、血圧や心臓の病気を持っている方が多いため注意が必要です。毎日排便がなくてもトイレに行ってらくに出るのなら問題はないですが、毎日排便があってもいきまないと出ないのは問題です。繰り返しになりますが、このような場合は運動や食事で何とかしようと思わずに、医療機関を受診するようにしてください。症状が軽いうちに治療を始めると、いずれ服薬が不要になる可能もあります。たかが便秘と考えずに、早めの行動を心がけてください。

コラム
自宅で気軽に行えるお通じ体操

便秘対策のための運動は「がんばる」ではなく「無理をしない」「習慣化する」ことが大切だとお伝えしました。そこで、自宅で毎日、ちょっとした空き時間に行える『お通じ体操』をご紹介します。健康運動指導士が動画で丁寧に解説していますので、ぜひご覧ください。

「お通じ体操」紹介画像
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ひどい便秘でお困りの方は、病院で受診するのがおすすめです。
医師による適した治療を受けることが、便秘を解消する一歩になります。

監修

横浜市立大学附属病院

中島 淳 先生

横浜市立大学大学院医学研究科・肝胆膵消化器病学教室 主任教授、診療科部長。医学博士。
1999年から2001年までハーバード大学客員准教授を務め、腸管免疫の研究にあたる。医療従事者向けの「慢性便秘症診療ガイドライン」作成メンバーとして尽力し、海外の便秘薬や最先端治療に精通。
※2022年12月現在の情報です。