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実は認知症と便秘には深い関係があります。
下のグラフは50~79歳の日本人男性19,396人、女性22,859人を対象に2006年から2016年にかけて認知症の発症について追跡した研究です。
お通じの回数が週3回未満の人は毎日1回お通じのある人に比べて、男性では約1.8倍、女性では約1.3倍、認知症の発症リスクが高くなるという結果が示されています。
これにより、お通じの回数が少ない人ほど、認知症を発症するリスクが高い傾向があることがわかりました1)。
● 年齢、BMI、喫煙、飲酒、糖尿病、高血圧、脳卒中、身体活動、同居家族、内服薬、エネルギー調整総食物繊維摂取で調整
● いずれかの共変量が欠損している参加者は除外された
● limitation:うつ病や甲状腺機能低下症といった測定されていない交絡因子によって結果がゆがめられている可能性がある 等
こちらは先ほどと同じ研究ですが、非常に硬便の人は普通便の人に比べて、男性では約2.2倍、女性では約1.9倍、認知症の発症リスクが高くなるという結果が示されています。
これにより、硬便な人ほど認知症を発症するリスクが高い傾向があることもわかっています1)。
1)Y. Shimizu, et al. Public Health 221 (2023) 31-38 より作図
● 年齢、BMI、喫煙、飲酒、糖尿病、高血圧、脳卒中、身体活動、同居家族、内服薬、エネルギー調整総食物繊維摂取で調整
● 傾向性の検定は、「下痢と便秘を繰り返す」グループ以外のグループで行った
● いずれかの共変量が欠損している参加者は除外された
1)Y. Shimizu, et al. Public Health 221 (2023) 31-38
イギリスの老年精神科クリニックで認知症と診断された65歳以上の198人を対象に、自律神経症状や身体機能・日常生活機能などの状態とその関係を調査したところ、認知症の方は便秘を訴える傾向が高いことがわかりました2)。
※認知症を伴うパーキンソン病患者46人、レビー小体型認知症患者32人、血管性認知症患者38人、アルツハイマー型認知症患者40人、対照群42人の計198人。
● limitation:疲労感は自律神経機能障害の中核症状であるが、うつ病、身体活動、生活の質において重要な要素である 等
2)Allan L, et al. Dement Geriatr Cogn Disord. 2006; 22: 230-233.Table2.
認知症が進んでいくとお腹の膨張感や胃の不快感などを認知しづらく、またこの感覚を介助者に伝えられないことがあります。これによりお通じに至らず便秘状態になる可能性があります。
また記憶障害により、実際にはお通じがあったのにも関わらずそのことを覚えておらず便秘と訴えたり(偽性便秘)、便秘をお通じのサインと認識できず我慢してしまうこともあります3)。
3)眞鍋雄太, 医学書院, medicina., 2016.53(9)1415-1419
認知症の方の便秘への取り組みとしては、まず生活習慣を整えることから始まります。生活習慣の改善が困難な場合は、薬を使い治療していきます。
生活習慣の改善とは主に、
・食物繊維や水分の摂取量を増やす
・ヨーグルトなどの乳酸菌食品を摂取する
・運動やお腹のマッサージをする
が挙げられます4)。
4)中島 淳、前田 耕太郎, かかりつけ医のための便秘・便失禁Q&A, 日本医事新報社, P.114-115
これらを試しても便秘が解消しない場合は、かかりつけ医に相談するようにしましょう。
様々な種類の便秘薬があるので、患者さんの生活習慣や便秘のタイプを診ながら処方してくれますので、快適なお通じを目指しましょう!
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国際医療福祉大学 消化器内科統括教授 熱海病院 病院長 中島 淳 先生
1999年から2001年までハーバード大学客員准教授を務め、腸管免疫の研究にあたる。医療従事者向けの「便通異常症診療ガイドライン2023」作成メンバーとして尽力し、海外の便秘薬や最先端治療に精通。医学博士。
※2025年5月現在の情報です。
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この研究結果の理由として、便の大腸通過時間(大腸の動きが弱くなる)の遅延が考えられます。
大腸の通過時間が遅くなると、腸内細菌のバランスに影響を及ぼす可能性があります。この腸内細菌が認知症の発症に関与している可能性があることも指摘されています1)。