便秘の影に重大疾患?
注意すべき警告徴候

ここがポイント
  • クリニックと専門医の役割分担―専門医に紹介すべき患者と症状
  • 便秘の警告徴候で最も注意を払うべきもの、鑑別すべきもの
  • 便秘を引き起こす副作用を持つ薬剤例【一覧】

患者さんは、便秘で悩んでいても、最初に医療機関を受診することは少なく、まずはOTC医薬品や、健康食品などを試して治らない場合に初めて医療機関を訪れます。しかし、一口に便秘といっても原因はさまざまで、別の疾患や薬剤の副作用が原因となっている場合がありますので、たかが便秘、と甘く見ずに「疾患」として向き合うことが大切です。

監修大船中央病院 上野文昭先生

便秘診療におけるクリニックと
専門医の役割分担とは

クリニックでは患者さんの掘り起こしと警告徴候の見極めを

便秘を主訴として訴えない患者さんでも、症状を掘りさげて聞くと「実は便秘だった」という場合が少なくありません。クリニックの役割は、そのような患者さんを掘り起こし、見つけることです。別の慢性疾患で通院している患者さんには「ご飯を美味しく食べていますか」「お通じはきちんと毎日ありますか」と、食事と便通を合わせて質問するのがポイントです。

診察を通じて患者さんに便秘症状があることが判明した場合、次は警告徴候(レッドフラッグサイン)を確認し、器質性便秘を鑑別します。警告徴候があり、器質性便秘が疑わしい場合には、専門医へ紹介してください。警告徴候がない場合は、次は基礎疾患の薬剤影響を見極めて、薬剤性便秘を鑑別します。
以上を切り分けたのち、機能性の慢性便秘症であることを診断します。慢性便秘症であっても、「排便時に長時間怒責する」「軟らかい便でも排出困難がある」などの症状がある機能性便排出障害の場合には、通常の便秘治療に用いられる緩下剤、下剤の効果がみられなければ専門医に紹介してください。

便秘診療フロー図
診察
便秘症状確認
警告徴候切り分け
器質性便秘切り分け
薬剤影響切り分け
薬剤性便秘切り分け
診断
慢性機能性便秘診断

便秘で注意すべき警告徴候

便秘の患者さんで注意すべき警告徴候

警告徴候があった際、最も注意を払うべきもののひとつとして、「大腸がん」があります。大腸が狭くなるなど形の変化によって起こる器質性便秘は大腸の疾患と関連がある可能性も高いです。さらに、薬剤の副作用による薬剤性便秘もあり、これは特に多く見られます。
警告徴候は以下のリストで判断し、薬剤性便秘は病歴で診断してください。

便秘の患者で注意すべき警告徴候
  • 便柱の狭小化
  • 便潜血反応陽性
  • 鉄欠乏性貧血
  • 閉塞症状
  • 50歳以上で過去に大腸癌スクリーニングを受けたことがない
  • 最近発症した便秘で原因が明らかでない
  • 血便
  • 直腸脱
  • 大腸癌あるいはIBD(炎症性腸疾患)の家族歴
  • 体重減少

出典:小林健二著(2018)『極論で語る消化器内科』丸善出版

併用薬剤を確認することが重要

薬剤の副作用で便秘が引き起こされる

診察で必ずしっかりと聞いてほしいことに、薬剤の服用があります。患者さんがお薬手帳を持っていたらひと通り見て、副作用に便秘がある薬剤を服用していないかを確認してください。この確認によって、多くの便秘患者の原因を特定でき、治療の方向性が決まる場合も多いです。お薬手帳だけでなく、OTCで飲んでいる薬がないかも合わせて確認してみてください。

薬剤性便秘がよく見られる例は、高血圧の患者さんです。降圧剤のカルシウム拮抗剤は便秘の副作用が出ることが多くあります。抗精神病薬、抗うつ薬、ベンゾジアゼピン系抗不安薬など、精神疾患の薬剤も便秘の副作用が出るものが多いため、精神疾患の患者さんで、酸化マグネシウムなどの浸透圧性下剤が無効な場合には、専門医に紹介するのがよいでしょう。そのほか、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、睡眠導入薬なども便秘を引き起こしやすい薬剤です。

便秘を引き起こす薬剤例

鎮痛薬

  • NSAIDs
  • 麻薬および類似薬

抗コリン薬

  • アトロピンおよび類似の鎮痙薬
  • 抗うつ薬
  • 抗精神病薬
  • パーキンソン病薬の一部

抗てんかん薬

抗ヒスタミン薬

降圧薬

  • カルシウムチャンネル拮抗薬
  • クロニジン
  • ヒドララジン
  • メチルドーパ

抗悪性腫瘍薬

  • ビンカアルカロイド

利尿薬

金属イオン

  • アルミニウム(制酸薬、スクラルファート)
  • 硫酸バリウム
  • ビスマス
  • カルシウム(制酸薬、サプリメント)
  • 鉄剤
  • 有毒性重金属(ヒ素、鉛、水銀)

レジン

  • コレスチラミン
  • ポリスチレンスルホン酸ナトリウム

出典:小林健二著(2018)『極論で語る消化器内科』丸善出版

監修

大船中央病院 特別顧問
東海大学医学部内科 客員教授

上野 文昭 先生

Tulane大にて卒後研修課程を修了し、米国内科専門医資格取得。東海大医学部内科などを経て、2004年より現職。厚労省研究班、日本消化器病学会で炎症性腸疾患診療ガイドライン作成責任者を務めた。また、米国内科学会(ACP)日本支部長、同国際評議員、米国消化器病学会(ACG)国際関係委員会議長などを歴任。
※2019年3月現在の情報です。