小児便秘の治療戦略
― 作用機序理解で治療が変わる ―

ここがポイント
  • 小児便秘治療薬の種類別解説
  • 私はこう考える「小児便秘の治療戦略」
  • 服薬アドヒアランスのために。子供と保護者に伝えるべきこととは?

小児便秘治療においては、生活指導だけでなく薬物治療が必要な場合もあります。その際、大切なことは、子供が無理なく治療を続け、服薬アドヒアランスが維持されることです。保護者に薬剤の作用機序を正しく伝え、薬物治療を受け入れてもらうことが重要なポイントです。さいたま市立病院 中野美和子先生と東京女子医科大学 永田智先生が小児便秘の治療戦略を解説します。

監修さいたま市立病院 小児外科 中野美和子先生
東京女子医科大学 小児科学講座 永田智先生

小児便秘治療に使用される主な治療薬

浸透圧性下剤

浸透圧性下剤は、軽度の便秘症や便秘症治療において最初に使用されることが多い下剤で、穏やかな効果があります。投与量を調節することで、便の硬さ、形状を正常化させます。

塩類・糖類下剤

腸内の浸透圧を高くして便の水分含量を増やす浸透圧性下剤には、塩類下剤と糖類下剤があります。塩類下剤で代表的なのは酸化マグネシウムです。同剤は小児における慢性便秘症の適応はありません。糖類下剤ではラクツロースが代表的です。

  • 一部の製剤以外は、小児の便秘改善の適応がない。
ポリエチレングリコール製剤

2018年に2才以上の小児の慢性便秘症治療薬として発売された薬剤で、欧米では標準治療薬として使用されています。これは、水に溶解して服用するもので、薬剤自体が服用した水分を保持し腸に届けることで便の水分含有量を増やします。この成分は、体内に吸収されません。ゆっくりと作用する薬剤として注目されています。

膨張性下剤

薬剤が水分を含んで膨張し、便容積を増やすとともに軟らかくします。学童期以降に使用されることがあり、排便時の痛みの軽減を目的に使用する場合があります。

大腸刺激性下剤

大腸を刺激して排便を促す大腸刺激性下剤は、アントラキノン系薬剤とジフェノール誘導体薬剤の2種類に大きく分けられます。浸透圧性下剤を使用しても効果がなかった場合に頓用で用いられることや連用することもあります。

坐薬、浣腸

便塞栓や便失禁など直腸に便が溜まっている場合は、肛門にビサコジル坐薬やグリセリン浣腸を入れて排便を促す場合があります。肛門を塞ぐ便の除去に一時的に使用します。

漢方薬

大建中湯、小建中湯、大黄甘草湯などがあり、軽度および中等度の慢性便秘症の場合に使用されます。大腸の動きを整え、緩下剤や坐薬、浣腸などに併用して使用される場合もあります。大黄を含む薬剤は長期連用に注意を要します。専門医に相談することをおすすめします。

私の治療戦略 病態把握と保護者理解が大切

監修 中野 美和子 先生

まず、保護者の薬剤に対する抵抗感を取り除く

現在、小児の便秘で保険が適用されている浸透圧性下剤に分類される薬剤は、ポリエチレングリコール製剤のモビコール配合内溶剤(2歳以上)とラクツロース製剤のモニラックの2種類です。これらの薬剤は体内に吸収されることはほとんどなく、身体への負担が少ないことが考えられます。

一般的に、保護者は「薬とは身体に吸収されるもの」と思っています。そのため、保護者は小児が長期間に渡って、薬を飲み続けることに抵抗感があります。

小児便秘に適応のある薬剤の多くは体内にあまり吸収されないため、これを説明することにより保護者が抱く薬剤への心理的なハードルを下げ、薬物治療を開始しやすくします。
小児便秘治療において、薬剤使用が必要な場合は、まず保護者への説明と納得が必要となります。

病態に合った治療戦略 まずは、便塞栓の有無を確認

小児便秘の治療戦略は、それぞれに異なる個々の病態に合った治療法を選択することが重要です。

薬物治療が必要と判断した場合、便塞栓がなければ、穏やかな効果であるポリエチレングリコール製剤などの浸透圧性下剤による薬物治療を最初から勧めてよいと考えます。

便塞栓による直腸の拡張が強い症例では、最初に浣腸で排便させて、直腸内を減圧することが大切です。その後ポリエチレングリコールなどの浸透圧性下剤か、腸の動きが悪い場合には刺激性下剤を併用します。
直腸のみが拡張し、S状結腸があまり拡張していない症例では、浣腸などの肛門刺激を行うこともあります。

横行結腸や下行結腸など大腸の半分が拡張している症例では、浣腸とポリエチレングリコールなどの浸透圧性下剤内服を併用します。まず浣腸で拡張した直腸を正常に戻していくことが大切で、その後内服でも腸の動きを改善していきます。直腸はすぐには正常に戻りませんので、浣腸での治療を1ヵ月ほど続け、直腸が正常に戻った後に内服を開始することもあります。

重度の便秘の小児の場合、便塞栓を除去していない状態などで内服を行うと治療効果が得られない場合もあります。そのような経験を持った保護者は薬剤で効果が出なかった経験がこれまで何度もあるため、「内服薬では効かない」「この薬は前に飲んで効かなかったから、飲んでも効かない」と思い込んでいます。医師は「以前は効かなかったかもしれないけど、溜まっている便も取れているので、今回は効果が期待できるから飲ませてください」などの保護者が理解できる言葉を補足し、保護者の薬剤への抵抗感をやわらげたうえで、薬物治療を開始するとよいと考えます。

小児便秘治療のカギは、服薬アドヒアランス

監修 永田 智 先生

服薬アドヒアランスと薬剤の有効性を引き出す条件

小児便秘の治療では、子供が無理なく治療を続けること、服薬アドヒアランスを維持することが非常に重要ですが、味がまずい、服薬回数が多いなどの「飲みにくさ」がある場合は、良好な服薬アドヒアランスを得ることが難しくなります。そのため、小児便秘の治療薬は、なるべく簡便に服用できて、無理なく続けられることが求められます。

もとより、薬剤は小児にとって飲みにくいものですが、剤形、服用量、服薬する時間、回数、併用薬などの服用上のさまざまな条件が加わることで、より飲みにくく、保護者にとっては、飲ませにくくなります。また、現代社会において、時間が十分に取れない保護者も多く、子供は、どうしても保護者、大人の都合に合わせざるを得ない状況にある場合も多いでしょう。さまざまな家庭環境、状況がありますので、できる限り配慮した処方をすることが求められていると考えます。

また、薬剤の効果が得られれば、この薬剤を飲むことで適切で快適な排便ができた経験により、子供自身がその薬剤を「飲みたい」と言うようになることもあります。ほとんどの子供は、心地よく、スッキリした排便を経験すると、服薬した薬剤の効果を実感でき、正しく服用することの大切さを理解します。

そして、もし処方した薬剤の服用ができなかった場合は、保護者が、子供自身と解決法を一緒に模索することも大切だと思います。生活指導をしても、生活パターンを急に変えられることは少なく、最初は薬剤の服薬さえも守れない場合があります。重要なのは、「お伝えしたことが、もし守れなくてももう一度来院いただくこと」を保護者にお伝えすることだと思います。その際には、「処方した薬が合わない場合もあるし、飲み方が難しかったり、量が合わないこともあるので、お伝えしたことができなくても、大丈夫なので次のタイミングで来院してください」とお伝えします。来院が継続されず、便秘の病態が悪化しないよう、悪循環を避けることが大切だと思います。

薬剤の作用機序を保護者にしっかりと説明する

薬剤は小腸で吸収された後に効果を発揮するものが多いことは事実です。そのため、多くの保護者は薬剤が体内に吸収され、小児の身体に負担をかけることをイメージしてしまい、薬剤を使い続けることに抵抗感を持っています。また、服用することで、身体の中にどのような変化が起き、何を期待して、この薬剤を飲むのかを理解していなければ、子供に起こった変化をどう捉えればよいのか、医師に伝えるべき内容なのかも、保護者はわからないことが多いのです。

そのため、処方する薬剤の目的だけでなく、薬剤の作用機序の簡単な説明や薬剤の服用により期待される変化をお伝えし、どのような子供の変化に気をつければよいか具体的にお伝えするとよいと思います。たとえば、「排便する前と後の行動の変化」として、以前は排便を嫌がっていたのが、薬剤を飲んだ後、変化があるかを見てみてください。などの言葉をそえると良いと思います。排便することを嫌がらなくなった後に機嫌よく遊ぶようになったなど、子供の快便を示唆するお話を聞き出すことが大切だと思います。

保護者に薬剤の作用機序を正しく簡単に伝えることが、小児の服薬アドヒアランスを向上させるカギになります。

監修

さいたま市立病院 小児外科
学校法人 神戸学園 理事
神戸動植物環境専門学校 校長

中野 美和子 先生

慶応義塾大学病院、国立小児病院(現:国立成育医療研究センター)などを経て、さいたま市立病院小児外科部長。昨年退職し、現在は非常勤で外来を行っている。排便障害を持つ外科疾患の排便管理と合わせ、一般の小児慢性機能性便秘症、特に難治例の治療に携わる。
※2019年3月現在の情報です。

監修

東京女子医科大学 小児科学講座 教授・講座主任
小児総合医療センター センター長

永田 智 先生

英国クイーンエリザベス小児病院、ロンドン大学大学院博士課程、順天堂大学小児科およびプロバイオティクス研究講座 准教授、東京女子医科大学病院副院長などを経て、2015年より現職。専門領域は消化器、呼吸器、膠原病、アレルギー、栄養、プロバイオティクスと多岐にわたる。
※2019年3月現在の情報です。