多職種連携を活かした満足度の高い便秘治療

慢性便秘症治療のポイント
  • 治療においては医師や看護師だけでなく理学療法士、管理栄養士といったパラメディカルスタッフと連携で行う
  • 排便日誌は医師側の情報収集だけではなく、患者さんの気付きにおいても有効
  • 薬剤治療だけではなく、必要に応じて運動療法や栄養指導も合わせて行う
  • 腹部単純X線撮影は、患者さんに治療の意図・効果を説明するのに有用
  • 満足度は患者さんが判断するものであり、それを目指して治療に当たる

監修医療法人 芙蓉会 村上病院 院長 水木一郎先生

1. 便秘外来開設に当たって

きっかけとなった慢性便秘症ガイドラインの発表

2010年以降に新たな作用機序の便秘治療薬が次々と登場し、2017年には慢性便秘症ガイドラインが策定されています。ガイドラインの発表によって、患者さんに安全な便秘治療の提供が可能になりました。当院でも便秘外来開設の話が持ち上がり、2020年の6月から診療が開始されました。
まず検討したのは外来の名称です。便秘外来では患者さんが抵抗を感じるのではないかと考え、スタッフといろいろ話し合いました。便秘解消のために腸を活性化するという意味を込めて、名称は「腸活外来」としました。この名称により、便秘治療において医師や看護師だけでなく、管理栄養士や理学療法士との連携も視野に入れることができました。管理栄養士は食事、理学療法士は運動という観点からのアプローチです。この名称によって便秘を治療するだけではない、健康的な生活を目指した外来であると認知されたと思います。
開設に当たってはポスターやリーフレットの作成(図1)、病院Webサイトへの掲載を行いました。患者さんの多くは女性が想定されたので、ポスター、リーフレットの作成は理学療法士を中心とした女性スタッフにお願いしました。腹部にハートの形をした手を添えた写真を採用し、優しいイメージに表現出来たと思います。

図1 腸活外来ポスター

体の中からキレイに。腸活外来のご案内

提供:医療法人 芙蓉会 村上病院

院内で患者さんのリサーチ

まず、患者さんのリサーチが必要だと思い、これまでに便秘で来院された患者さんの詳細な情報を調べました。すると便秘治療に訪れた患者さんの数は意外と多く、安易に刺激性下剤を服用していることもわかりました。他科の医師からも話を聞いたところ、やはり同様の意見が返ってきました。そうした情報から潜在的な患者さんがかなり存在することが予想できました。
初診の患者さんはどうしても時間がかかるので、問診票は診療の流れを円滑にするためにPDF化してダウンロードできるようにしました(図2)。問診票のPDF化は開設前から決めており、こうすることによって多岐にわたる諸症状・経過を事前に書き入れてもらうことが可能になります。

図2 便秘問診票

便秘の問診表

提供:医療法人 芙蓉会 村上病院

2. 患者さんへの対応

思った以上に多い男性患者

当院は小児科がありませんので、高校生から高齢者が対象となります。開設前は圧倒的に女性の患者さんが多いと思っていました。いざ開設してみると女性が75%、男性が25%という結果です。思った以上に男性の患者さんが存在するという印象でした。しかも高齢の男性に難治性の患者さんが多く見られました。

若い女性にはパラメディカルスタッフと連携して対応

高校生の女性患者さんの多くは親御さんと一緒に来院しますが、排便状態を聞き取ることは非常に困難です。羞恥心があり具体的な話をしてくれません。そうした場合は、まず私自身の排便について話題を出し、次に看護師さんに話をつないで、それから患者さんの状態を聞いたりします。特に女性は排卵時のプロゲステロンの分泌が原因で便秘を発症する場合もあるので、そうした質問は女性の看護師にお願いするようにしています。
治療に当たっては医師と患者さんだけでなく、看護師も交えて話しやすい雰囲気にします。問診する際には笑いを取り入れて、自ら話を始めてくれるような環境を作ります。患者さんの話を聞いていくと、食生活や運動の話題などが出て日常生活が見えてきます。そこから「一度、栄養指導を受けようかな」という言葉が出たならば管理栄養士、「運動療法を試したい」という希望があったなら理学療法士を紹介し、連携して治療に当たります。

腸活外来は週に1回の診療

腸活外来は週に1回、金曜日の14:00から16:00に行なっています。週末のこの時間帯が検査、内視鏡手術が最も少なかったので、そのように決めました。最近ではこれだけでは間に合わなくなってきたので、継続治療の患者さんは普段の外来の午前中にも組み入れて診療するようにしています。2020年に腸活外来を開設してから、現在までで新規患者さんの数は約50人です。1回で来院される初診の患者さんは多い時でも4人程度なのですが、慢性便秘症の治療は長期間かかるので、患者さんの数は増えていくことになります。

3. 治療継続のために心掛けること

柔軟な対応で患者さんとの信頼関係を築く

便秘治療薬の副作用で最も多いのは下痢です。処方した薬で下痢になったりすると、患者さんは治療を控えるようになってしまうので注意します。
初診の場合は必ず2週間分で処方し、患者さんから便通の状態を聞き出すようにしています。1週間では体調や食事の内容によって便通が変わってしまうので短過ぎます。1ヶ月だと長過ぎますので、2週間にしました。激しい下痢が起こったり、腹痛を発症したりした場合は2週間を待たずに来てもらうようにしています。こうしたことの繰り返しで医師と患者さんの信頼関係を築くことがアドヒアランスの向上につながると考えています。
排便日誌は必ず書いてもらうようにしています。やはり日誌をつけていると患者さんも自分自身が見えてきて、 1週間出ていない、硬便のあと軟便になるなど、いろいろな気付きがあるようです。排便日誌は医療者側の情報収集だけでなく、患者さんにとってもメリットがあると思います。

4. 理学療法士の便秘へのアプローチ

運動療法を指導し、情報を医師と共有

理学療法士は腸の蠕動の活性化を目的とした運動療法を指導します。医師から運動療法が必要と判断された患者さんに行うもので、医師や看護師から届けられた情報を基に運動療法を組み立てます。便秘の患者さんは年齢層が広いため、患者さんと話し合いながら決めていきます。毎日継続して行うことが重要なので、患者さんが普段行なっている運動を取り入れることもあります。基本的に腸の蠕動を活性化させるための運動を行うのですが、女性の場合は骨盤底筋の働きも関係するので、排便し易い姿勢なども指導します。
便秘は大きく器質性便秘と機能性便秘の2つに分けられ、機能性便秘はさらに弛緩性便秘、痙攣性便秘、直腸性便秘に分類されます1)。理学療法士はこの4つの病態分類に基づいて運動指導を行います。例えば、骨盤底筋の低下により直腸性便秘になった患者さんの場合は、医師が直腸性便秘についての情報を理学療法士に伝え、肛門括約筋や骨盤底筋を鍛えるような運動療法を指導します。指導後、どのような結果になったかは医師にフィードバックされ、互いに情報共有しながら治療を進めていきます。
理学療法士は運動だけでなくマッサージ法なども取り入れています。特に高齢者の女性やADLが低い患者さんなどにはマッサージ法を指導します。
腸活外来を開始する時から運動療法を取り入れることは決定していました。開設時には管理栄養士、理学療法士を組み入れて診療していくとアピールしています。

5. 治療の流れ

腹部単純X線撮影で便秘の状態を確認

当院では便秘診断と治療方針を決定する際に、腹部単純X線撮影(立位と仰臥位)を行うようにしています。腹部単純X線撮影は、溜まっていると便塊が明確に写し出されます。可視化することで患者さんに便秘の状態を納得していただき次の治療に入るための重要な検査だと考えています。
上行結腸に固形便が多く溜まっている場合と流動体便が少ない場合は小腸からの大腸への水分流入低下を疑います。その場合は水分を増加させる薬を提案し、年齢によっては腸の動きも加味します。下行結腸に便が溜まった場合は大腸での水分不足、腸の蠕動低下を説明し、大腸に水分を供給し腸を動かす薬剤を提案します。便塊の溜まっている部分がS状結腸の場合は消化管機能だけでなく骨盤底筋の低下も考えられるので、また別の下剤を処方することもあります。画像を見ながら患者さんに納得していただいて薬剤の選択を行うという方法は患者自身の納得感を伴う治療につながることもありアドヒアランスの向上にもつながっています。

6. 他科からの紹介

困難な患者さんが多い精神科

当院の関連施設に精神科の病院があるのですが、ここから便秘症の患者さんが紹介されてきます。紹介されるほぼ全ての精神科の患者さんは向精神薬を服用されており、それに対する依存性、薬剤耐性、習慣性などがあり治療は非常に困難なものとなります。精神科の方では向精神薬を減らせない状況にあり、結局は薬を増量したり、他剤併用するしかありませんでした。
婦人科では子宮・子宮付属器の手術を受けた患者さんが便秘になるケースがあります。手術後の腸との癒着によるもので、そうした患者さんにも適切な薬剤を選択して処方します。
糖尿病の患者さんも便秘になり易く、内臓や血管などの壁をなす平滑筋や骨格筋が弛緩しているので、どうしても腸の蠕動運動が低下する場合もあります。こうした場合は薬剤治療だけでなく理学療法士による運動療法やマッサージ法などの指導を行います。

7. 治療ゴールについて

患者さんが判断する満足を目指して

便秘治療の最終目標は快便、つまり患者さんの排便の満足度を上げるということです。満足と感じるその排便状況は人それぞれ違います。よってその満足度は私達医師ではなく、患者さん自身が判断するものです。治療ゴールはそこを目指したいと思っています。
中には慢性便秘症診療ガイドライン2017に当てはまらない患者さんもいます。そうした患者さんでも満足が得られるように持っていく。治療はパーフェクトでなくてもいいのではないでしょうか。大切なのはそこに行くように努力することだと思います。

【文献】
  • 1)味村俊樹: 5. 便秘.菅野健太郎ほか編.消化器疾患最新の治療 2007-2008,南江堂,東京,2007,p72-75
監修

医療法人 芙蓉会 村上病院 院長

水木 一郎 先生

村上病院消化器センターにおいて食道、胃、大腸、肝臓、胆嚢、膵臓などの疾患を中心に診療。日本内科学会認定内科医/日本消化器病学会消化器病専門医/日本消化器内視鏡学会消化器内視鏡専門医/日医認定産業医/日本スポーツ協会認定スポーツドクター

監修

理学療法士

奈良 久恵

監修

看護師

小山内 陽子