小児便秘の治療を成功に導く指導のコツ

ここがポイント
  • 治療継続のカギは「物理面・心理面」双方からの働きかけ
  • ブリストル便形状スケール活用法:【ダウンロードあり】
  • 保護者への生活指導のコツは、個々の生活スタイルを見て「できる範囲」から

小児の便秘治療では「便を出すこと」と同様に、保護者と子供本人の「排便に対する考え方を変えてあげること」が重要なポイントです。各家庭の生活スタイルがある中で、「できる範囲」から取り組める指導が求められています。

監修済生会横浜市東部病院 小児肝臓消化器科 十河剛先生

治療成功への第一歩は「便を出しやすい硬さに調整すること」

子供が持つ排便への印象をポジティブに書き換える

便秘の子供達にとって、排便は、排便時の痛みやつらさ、トイレが怖いといった印象が強く残されているものです。治療を成功させるためには、「排便=苦痛で怖いもの」という脳の記憶を「排便=気持ちよくてスッキリするもの」に書き換えなければなりません。気持ちよい排便の実現のために、症状に応じた適切な便秘治療薬を使用することのほかに、ブリストル便形状スケールを用いて排便しやすい便の硬さに調整することが肝要です。

ブリストル便形状スケール
1〜2:硬い便、3〜5:健康な便、6〜7:軟便、めざすのは4のバナナ状のウンチ

Lewis SJ, et al.: Scand J Gastroenterol 1997; 32(9): 920-924 より作成

ブリストル便形状スケールを活用し「気持ちよい排便」に近づける

一般的に成人ではブリストル便形状スケールのスコア4を正常としますが、子供の便秘の治療初期では、スコア4の便は出すのが難しいため、苦痛なく排便できるスコア5か6の軟らかい便が出るように薬剤を調整することが推奨されます。軟らかく泥状のスコア6の便になると、「今度は下痢になってしまったのではないか」と心配する保護者が多いため、治療の影響で軟らかい軟便が出る場合があることをあらかじめ説明しておくことが大切です。この調整を継続して子供が「気持ちよくてスッキリする」排便ができるようになったら、徐々に減薬してスコア4を目指します。

排便後の子供は、何度もほめてあげます。保護者にもほめてあげることを伝えてください。「すごいね。よくできたね。ウンチしたら気持ちいいね。スッキリしたね。」という声掛けによって、子供の記憶にある排便の印象が、「気持ちいい、スッキリ」に書き換えられていきます。子供を褒めるのが苦手だという保護者には、100点満点中25点出来たら褒める(25%ルール)ように伝えると、褒める回数が増えてきます。ブリストル便形状スケール入りの排便日誌を活用し、医師と保護者の双方で、経過を把握していくことも効果的です。そして、受診した際には、子供と保護者を医師や看護師も、25%ルールで必ず褒めてあげて下さい。

ブリストル便形状スケール入り排便日誌

ブリストル便形状スケール入り排便日誌のダウンロード版をご用意しました。以下のボタンからダウンロードしてご活用ください。

  • ※ダウンロード版はA4 PDFとなります。

継続治療には状態を可視化して見せることが効果的

子供の便秘治療は長期に渡ります。治療を開始するときに、保護者にも、患者である子供本人にも、「数年かかって築いてきた排便習慣を変えるには、同じぐらい時間がかかるもの」と伝え、理解を促します。

また、超音波検査で直腸径計測をして、画像と計測値を示すというやり方もあります。状態を可視化しながら説明することで、治療が長期に渡る納得感も得られ、服薬コンプライアンス向上にも役立ちます。改善がみられていた際、保護者に「伸びていた腸が縮んできています。腸が敏感になってきている証拠なので、薬も減らせます」と説明すると、治療継続へのよい刺激になります。改善が見られない場合は服薬がきちんとできていないことが多いため、保護者には「便を溜めこんでいるので、腸が伸びています。便を我慢せずに出して、腸が縮むと鈍った腸のセンサーが敏感になり、薬を減らすことができます」と伝え、服薬コンプライアンス向上を働きかけます。

保護者への生活指導のコツ

生活習慣:決まった時間に排便する習慣をつける

朝は腸の動きが活発になる大事な時間帯です。早寝、早起きの規則正しい生活習慣は朝食や排便などの時間に余裕が出て、便秘改善にもプラスに働きます。

まずは保護者に、便秘の子供の多くは朝食後30分未満で家を出ることを説明し、可能な範囲で子供が朝に排便する時間的余裕を作ってあげるように指導します。朝食後、家を出るまでに1時間の余裕を持てることが望ましいです。起きてから早めに朝食をとってもらうなどの朝の時間の過ごし方を見直すことも効果的です。園児や小学生は8~10時間の睡眠時間が必要とされているため、早く起きるためには逆算して就寝時間にも注意を払ってもらいます。一方で、生活スタイルの多様化により、早寝、早起きが難しい家庭もあるでしょう。どうしても朝が難しいという場合には、排便のための時間確保が夜であっても問題ありません。大切なのは、決まった時間に排便するという習慣をつけることです。

食事:便秘によいものだけでもNG、バランスよくたくさん食べる

いい排便にはさまざまな要素が必要です。便の形と量を作るのは不溶性食物繊維、便を作るうえで重要な要素となる腸内細菌叢を整えるのは水溶性食物繊維です。便秘によい食物であっても、過剰摂取は、偏食や食事量、必要な栄養素の不足につながります。便秘改善に効果があると言われるヨーグルトなど乳製品も、毎食摂取すると全体の食事量が減ってしまいますし、市販の野菜ジュースは糖分が添加されていたり、思ったほど食物繊維が取れなかったりするので注意が必要です。子供の成長にはたんぱく質やビタミンの摂取も重要であることを伝え、極端な食事ではなく、好き嫌いなく、バランス良い食事を摂るように指導します。また、子供のおやつには、食物繊維がほとんどないお菓子ではなく、果物やおにぎりなどに変更できないか提案します。

排便姿勢:姿勢の改善だけで便秘が解消されることもある

洋式便座では、座ったときの姿勢で骨盤が前に傾き、直腸と肛門の角度が鋭角になるため、便が引っ掛かり排便しづらさがあります。和式便座では、しゃがむ姿勢を取ることで骨盤が後ろに傾いて直腸と肛門の角度が鈍角になり、直腸と肛門が直線上になるため、スムーズに排便することができます。

昨今は洋式便座が主流となっていることを踏まえ、洋式便座でも和式便座に近い姿勢が取れるよう指導します。姿勢の指導や補助便座、足台の使用を勧めるとよいでしょう。

家では洋式便座であっても、学校では和式便座の場合もあります。子供にとって、この違いは大きく、このことが排便を我慢してしまう理由の一つになっていることもあります。この辺りにも注意深く耳を傾けることが大切です。

姿勢による直腸の図(A:洋式便座、B:和式便座、足台使用時)
A:直腸肛門角が鋭角
B:直腸肛門角が鈍角化

ルール作り:排便を楽しくするルール作りのススメ

子供はほめられるのが大好きです。トイレで排便ができたら、「トイレでウンチできるなんてお兄さんだね!お姉さんだね!」とほめてあげたり、「すごいね!もっとたくさん出せると、もっとすごいね!」と子供が繰り返したくなるような言葉をかけたりすると効果的です。

また、排便した日はカレンダーにシールを貼ったりするなど、子供が喜ぶルールを作ることも効果的です。この場合、保護者自身の排便時にもシールを貼って、子供にも、「大人も排便すること」を伝える工夫も効果的です。保護者も長期に亘る便秘治療に疲弊されないように、子供だけではなく、保護者も一緒に喜べるようなルール作りを勧めています。

「ウンチをするのは良いこと」
医師が子供に直接伝えることに意味がある

コラム
汚いウンチが出て行ったお腹はキレイ

医師が小児に直接声をかけることも、小児の意識変革につながります。外来では小児に「ウンチってきれいかな、汚いかな?」と問いかけます。そうすると、全員が「汚い」と答えます。「そうだよね。じゃあ、汚いウンチがお腹の中にたくさん溜まっちゃうよりも、出した方が、お腹の中がキレイになるね」と言うと、口をそろえて「うん」という返事をするので、最後にこう語りかけます。「ウンチが出て行ったお腹はキレイだよね。だから、ウンチがしたくなったら、どこでもウンチしちゃうほうがいいね」

小児が完全に理解していなくても、「病院の先生がウンチをするのはよいことだと話していた」ということは、治療への意識にも影響があるものだと考えています。

監修

済生会横浜市東部病院 小児肝臓消化器科 副部長

十河 剛 先生

防衛医科大学校での初任実務研修医、航空自衛隊医官、国際医療福祉大学附属熱海病院などを経て、2007年に済生会横浜市東部病院小児科医長、2013年より現職。専門領域は小児肝・消化器疾患。
※2019年3月現在の情報です。