小児便秘の治療ゴールを目指して

ここがポイント
  • 小児便秘には心理的側面も大きく影響。子供の性格にも目を向ける
  • 子供自身との対話から見極める治療ゴール
  • 保護者の治療への向き合い方が変わる、医師からの言葉とは

小児便秘の治療ゴールは「子供自身が心地よい排便ができること」です。その治療ゴールを達成するためには、小児便秘の治療をメンタルケアとセットで考え、子供と保護者に適切な声かけをすることが大切です。

監修さいたま市立病院 小児外科 中野美和子先生
東京女子医科大学 小児科学講座 永田智先生

小児便秘の治療ゴールとメンタルケア

監修 中野 美和子 先生

目指すべき治療ゴール

小児便秘の治療ゴールは「便秘でない状態」すなわち「小児が正常に排便ができるようになること」です。正常な排便とは、「週3回以上、便が楽にスッキリ出ること」です。この状態になるまで治療を継続していきます。早ければ6ヵ月程度で正常な排便になる場合もありますが、小児の便秘は個人差が大きいため、症状によっては数年かかる場合もありますし、10年くらいかかる場合もまれにあります。そのため、すぐに治るだろう、成長すればそのうち治るだろうと考えずに、その子に合わせた治療を選択しながら一緒に治療をしていく、というスタンスで便秘治療に向き合っていただきたいと思います。

小児の便秘治療はメンタルケアとセットと考える

小児便秘の治療で特に時間がかかる症例は、症状の重さに加えて心理的な側面が大きく影響していることが特徴として言えると思います。便塞栓などによる便秘の悪循環で長い期間継続した直腸の拡張が強い症例は治療に時間がかかりますが、それと同様にこだわりが強い性格の小児の便秘治療も時間がかかることが多いように思います。

小学校入学後の小児は、「学校のトイレ(和式)で排便するのが嫌い」「休み時間と排便のタイミングが合わず、便意がきても我慢してしまう」「学校では、排便する時間がない(トイレに長い間入りたくない)」「学校で排便するのは恥ずかしい」などの理由で、学校での排便を避ける場合があります。そのため、便秘薬を服用してしまうと「便意がいつくるかわからず不安」という気持ちが一層大きくなり、薬物治療に前向きになれないケースもあります。こういった事例から小児の感受性と便秘は深く関係しており、ささいなことが気になる小児ほど便秘になりやすく、治療に時間がかかる傾向があると思います。またこういう子供は食事についても同様で偏食が強いことがあり更に治療を難しくします。

このような背景から、小児の便秘治療はメンタルケアとセットと考えるとよいでしょう。プライマリケアを行うクリニックの医師には小児の性格の見極め、性格や傾向を把握したうえで、治療に臨んでいくことも大切です。

便秘治療とメンタルケアはセットで考えましょう!
コラム
「ウンチはしたいときにしていいんだよ」と言ってあげることの大切さ
保護者の
お話

私には2歳でオムツをしている子供がいるのですが、普段は朝食後に排便してから保育園に行く、という生活習慣ができています。ある日、私の仕事の都合でいつもより早めに家を出たんですが途中でウンチをし始めたんです。

家を出るときからもじもじしているなぁと思いながら、私も急いでいたので少しイライラしてしまって子供を引っ張るように連れて行っていたんですが、保育園に行く途中で、突然子供が動かなくなってしまったんです。

どうしたのかと思って抱っこしようかと近づいていくと、子供が「ママ、来ないで」と言い、公園の隅でウンチをし始めたのです。オムツなので近くのトイレでオムツを換えればいいだけなんですが、急いでいた私は「えーここでするの?保育園まであと少し。保育園ですればいいのに。。。」とつい言ってしまいそうになりましたが先生の言葉を思い出して黙って我慢してました。

ウンチが終わって私のところに来ても、私は時間ばかり気になって子供に声をかけるのを忘れてしまっていました。
すると、2歳の子供ながらに恥ずかしかったのもあり、私も怒ったような顔をしていたのだと思いますが、子供が落ち込んで話をしなくなってしまったことにふと気づいて、慌てて笑顔で声をかけました。

「スッキリしてよかったね。ウンチをしたくなったら、いつでもしていいんだよ。保育園に着いたらオムツ換えようね」と話しかけると、「うん」と言ってホッとしたように表情が明るくなって、いつものように話をし始めました。
わかっていても毎日の生活の中ではなかなか難しいものです。声かけの大切さを実感しました。

中野先生
から

お子さん、よかったですね。声をかけるのはとても大切なこと、その通りです。そこで「ダメ」と言ってしまったり保護者の方が怒ってしまったりすると、子供は萎縮してしまい、それが記憶に残って「ウンチをしたらダメなんだ」と認識してしまいます。

保護者の方も大変だと思いますが、かける言葉に気をつけてあげること、「ウンチはしたいときにしていいんだよ」と笑顔で声をかけてあげたのはとてもよかったと思います。

保護者の声かけは、小児の発達にとても大切です。ささいな言葉に子供は左右されます、医師から保護者に声かけの大切さを伝えることも大事なことです。

小児自身が「スッキリした」と言う状態を目指す

監修 永田 智 先生

治療ゴールは小児自身がスッキリした排便を実感すること

小児便秘の治療ゴールは、QOLの観点から考えると、「小児が心地よい排便ができること」になります。その状態が達成できれば、排便は自然に「週3回以上」になりますし、便塞栓や便失禁、排便痛もなくなります。

小児に排便について尋ねるときは、小児は排便回数など覚えていませんので、言葉で伝えられる小児の場合、排便の回数を尋ねるのではなく、「ウンチした時どうだった?」と質問するとよいでしょう。「スッキリした」という回答が得られれば、正常な状態と判断できます。

「スッキリした」排便は小児にも強く印象に残っているものです。小児便秘の治療では、子供自身から「スッキリした」という発話を得ることが、ひとつの治療ゴールになると思います。表現は子供によって多少異なりますが、2歳くらいになれば、子供は排便が正常であれば、「スッキリした」ということを理解するようになり、それを意味する言葉を自分から言うこともできるようになります。例えば、スッキリ、という言葉自体を言えなくても、「バナナウンチ」や「ストーンと出るウンチ」というような意味合いの言葉をいう子もいますし、「石ころみたいなウンチ?」と聞けば、「うん」「ちがう」と意思表示をする子もいます。排便した後に、スッキリしたか、声かけを行うことで、子供自身にもスッキリした排便を自覚させることも大切だと思います。最初は、スッキリ、という感覚がどのようなものかわからない子供でも、声かけのニュアンスから、少しずつ理解が深まっていくと考えます。

小児自ら言う この状態を目指すことが重要!

保護者には、安心して治療に取り組めるような声かけを

小児便秘の治療は、まずは、保護者に子供の排便に関心を持ってもらうことから始まります。そして、便がちゃんと出ているか把握してもらうことをお願いします。保護者に子供の排便に関心を持ってもらうために、初診時に「次の外来でお子さんの便について聞くので、保護者の方が答えられるように、お子さんの排便の状態(便の硬さ、お子さんが排便するときの様子)を気にかけておいてください」「お子さんの状態(排便する姿)などを見守っていてあげてください」と声かけするとよいでしょう。

家庭環境、生活習慣は、各家庭で事情が異なるため、生活指導はあまり厳しくせず、ハードルを高くしたりしないことがポイントだと思います。家庭によっては、なかなか改善できない、どうしても変えられない事情もあります。

小児便秘の治療は、治るまでにある程度時間がかかるため、子供と保護者に何度も来院してもらう必要があります。医師からは、「できなかったらできないで良いんですよ。」「無理な生活改善はしなくて良いので、この薬を飲ませてあげてみてください」「もし、薬が飲めなくても大丈夫ですので、また来てください」「飲めないときは、また一緒に考えましょう」「薬が飲めても、飲めなくても、薬が合っているかまた見ますので、また来てください」などと保護者に伝えることが治療継続につながります。

保護者にとって、ハードルが高いと、できなかった罪悪感から、来院しなくなってしまうことも多いです。子供にとって、これが一番避けたい事柄となりますので、一緒に治療していきましょう、というスタンスを是非持っていただきたいと思います。

また、保護者は子供の便秘を早く治そうと、気持ちが焦ってしまうことがあります。その場合は「この薬は、小児の便秘に効果があると言われています。焦ることはありません」「もしこの薬が効かなくても、お子さんや保護者の方のせいでもありません。その場合は別の方法もあります」「一緒に治療していきましょう」という言葉をかけて、保護者に安心してもらい、一緒に治療に向き合っていきましょう。

監修

さいたま市立病院 小児外科
学校法人 神戸学園 理事
神戸動植物環境専門学校 校長

中野 美和子 先生

慶応義塾大学病院、国立小児病院(現:国立成育医療研究センター)などを経て、さいたま市立病院小児外科部長。昨年退職し、現在は非常勤で外来を行っている。排便障害を持つ外科疾患の排便管理と合わせ、一般の小児慢性機能性便秘症、特に難治例の治療に携わる。
※2019年3月現在の情報です。

監修

東京女子医科大学 小児科学講座 教授・講座主任
小児総合医療センター センター長

永田 智 先生

英国クイーンエリザベス小児病院、ロンドン大学大学院博士課程、順天堂大学小児科およびプロバイオティクス研究講座 准教授、東京女子医科大学病院副院長などを経て、2015年より現職。専門領域は消化器、呼吸器、膠原病、アレルギー、栄養、プロバイオティクスと多岐にわたる。
※2019年3月現在の情報です。