大学病院における便秘外来の役割と専門治療

大阪公立大学医学部附属病院
消化器内科 部長 内視鏡センター長

藤原 靖弘先生

大阪公立大学大学院 医学研究科

小林 由美恵先生

慢性便秘症治療のポイント
  • 治療継続には患者さんとコミュニケーションが取れる排便日誌が有効である
  • 患者さんのライフスタイルに合わせた治療を行うと満足度が高い
  • 便秘に即効性のある治療はないことをきちんと説明する
  • 治療前には必ず大腸内視鏡検査を行い器質的な異常がないことを確認する
  • 難治性の患者さんは薬剤治療だけでなくバイオフィードバック療法なども提案
  • 便秘外来の開設を進めるためには院内における啓発が不可欠である

監修大阪公立大学医学部附属病院 消化器内科
部長 内視鏡センター長 藤原靖弘先生

1. 便秘外来開設の理由と経緯

新しい便秘治療法の確立を目指す

便秘外来を開設した理由の1つは、2010年以降新しい便秘薬が次々と登場したことです。これまでにない作用機序による薬剤で、治療の選択肢が拡がりました。もう1つの理由は、新しい治療法への試みです。当科では以前から食道や胃の機能検査を行っていたので、大腸や直腸に対して肛門機能検査も取り入れた治療法の確立を目指しています。
大学病院は一般病院において治療困難な患者さんが紹介されてくるので、難治性の症例を想定していました。内服薬で治療しても充分な効果が得られないような症例です。

便秘外来開設の手順

開設の準備は2016年末頃から始まりました。最初に始めたのは、大腸や直腸、肛門などの機能検査の習得です。研修のため数名の医師に何カ所かの医療施設に通ってもらいました。非常に苦労したのは検査場所の確保で、排便造影があるため中央放射線部と交渉をしなければなりませんでした。大腸通過時間検査も行いたかったのですが、使用する放射線非透過性マーカーが保険適用外のため導入を見送りました。
外来担当の看護師も必要だったので、看護部とも交渉を重ねました。最終的な問題は、誰が外来を担当するかです。結局、私と小林先生で担当することにしました。

図1 排便日誌

排便日誌

※実際の排便日誌では、医薬品の表記は成分名ではなく製品名で運用しています。
提供:藤原先生、小林先生

2. 関連施設との連携

共同の研究会を通じて患者さんの紹介を依頼

関連病院とは定期的に研究会を行っています。当初は10〜20症例ほど集まった段階で検査や治療の内容を研究会で提示し、難治性の患者さんを紹介していただけるようお願いしました。最初から大勢の患者さんを診ることができないので、新しい患者さんは週に1〜2人受け付けていました。
現在でも予約制になっていて、原則週に1人受け付けています。混んでいた時期は2〜3ヵ月待ちの状態でしたが、今は落ち着いて適度に患者さんが来院されています。最近は患者さんが当院のWebサイトを見て、クリニックの紹介状を持って来院するケースが多いですね。また、関連病院とは別の大阪府内の医療機関からの紹介も増えてきました。

3. 来院する患者さんについて

70代を過ぎると男性と女性の割合は同程度

2018年4月から昨年の12月までに受診された方は累計で約110人です。女性が約70人、男性が約40人ですが、予想外に男性が多いという印象です。平均年齢は60歳位で、65歳以上の患者さんが全体の42%を占めます。男性だけに限定すると、65歳以上は約70%になります。女性は幅広い年代で患者さんが見られますが、男性は高齢者に多い傾向があります。
最も若い患者さんは高校生の女性で、便秘の原因はダイエットやストレスです。体重を非常に気にしていて慢性的に市販薬の刺激性下剤を使用していました。刺激性下剤は連用すると排便効果が低下する可能性があります。20代の女性で難治性の患者さんは少ないのですが、話を聞いてみると食事をあまり摂っていない方が多く、それが原因で便秘を発症していました。
60代までは女性の患者さんが多い傾向にありますが、70代を過ぎると男性と女性の割合は同程度になります。
便秘症を含め消化器病の患者さんは午前中で20人ほどです。特に難渋している便秘症患者さんは最後に診るようにしています。診察時間は1人20〜30分が限度でしょう。通院に慣れてきて1ヶ月おきの患者さんとなると、家庭の事情や食事の内容などを、排便日誌を見ながら細かくチェックすることができます。

4. 治療継続のために心掛けること

アドヒアランス向上ための排便日誌

患者さんには服用した薬剤や便の様子を記載する「排便日誌」を必ず渡しています(図1)。1ヶ月単位に持参してもらい、それを見ながら患者さんと話し合います。例えば、指定通りに服用できない患者さんには、きちんと服用しないと効果が判断できないことを説明し、指導するようにしてします。この方法はかなり有効的で、当院の外来に来るような難治性便秘の患者さんの多くは細かく記述しています。

不安感を和らげるための声掛け

女性の患者さんが多いので、機能検査治療を行う際には部屋全体をカーテンで仕切り、外から見えないようにします。排便造影検査においては検査後の造影剤の残留に不安を訴える患者さんがいるので、浣腸などで造影剤を残さないように配慮しています。
患者さんの不安感を和らげるには丁寧な説明が必要です。ポイントとしては次にどのようなことをするのか、きちんと話すことでしょう。やはり声掛けは重要だと思います。

患者さんのライフスタイルに合わせた治療

患者さんの多くは便秘薬を飲み過ぎているようです。5〜6種類は服用しており、1日に複数回水様性の下痢を起こすことがあります。特に刺激性下剤を数種類服用されている患者さんには、種類を減らすように指導しています。患者さんは下剤によって排便するとスッキリしますから、どうしても服用がエスカレートします。このような患者さんには、刺激しているわけだから腸に鞭を打っているようなもの、常に鞭を打っていたら効かなくなるのは当たり前でしょうと説明するようにしています。
また、通院も3回目位になると、患者さんの生活環境が把握できるようになります。仕事の都合でトイレに行けない時間帯がある、食事の時間帯が不規則など、こうした日常の情報が引き出せるようになります。便秘薬は朝食前に服用するものが多いのですが、排便できたかどうかということよりも、患者さんのライフスタイルに合わせた治療を行った方が満足度は高いと思います。

5. 機能検査治療について

即効性のある便秘治療はないことを説明する

機能検査治療を行っている施設は少ないので、患者さんは治療効果の期待を持って来院されます。しかし、治療に入る前に、即効性のある便秘治療はないこと、長年にわたって起こった症状なので治療に時間がかかることなどを説明します。それで納得された場合には治療に入るようにしています。以前はなかなか効果が出なくて、3回位で止めてしまう患者さんもいましたが、最近6回は継続する患者さんが多くなりました。
機能検査ですが、まず、直腸肛門内圧測定検査1)があります。センサーを患者さんの肛門から挿入するもので、肛門および直腸の内圧を測定してPCに表示します。怒責をかけた時の基準値は直腸内圧が45mmHg以上、肛門管内圧が安静時より20%以上低下とされています(図2)。内服治療で効果がみられない機能性便排出障害が疑われる患者の診断治療に使用されます。次に紹介するのは排便造影検査2)です(図3)。バリウムと小麦粉で作った疑似便150mLを肛門から直腸内に注入し、排便時の直腸や肛門の動きと肛門括約筋の協調運動を評価するものです。X線撮影しながら、目視で肛門が開いているのか、きちんと腹圧が掛かっているのかを確認することができるので、わかり易い検査だと思います。希望する患者さんには検査中の画像を見せるようにしています。

図2 直腸肛門内圧測定

直腸肛門内圧測定

提供:藤原先生、小林先生

図3 排便造影検査

バリウムと小麦粉で作成した疑似便150mLを経肛門的に直腸内に注入し、排便動作時の直腸肛門の形態的な動きと肛門括約筋の協調遍動を評価する。

排便造影検査

提供:藤原先生、小林先生

6. 治療の流れ

必ず大腸内視鏡検査を行う

病院のWebサイトでは大腸内視鏡で異常のない方と掲載していますが、検査していない場合は必ず受けていただいています。高齢者でもADLが低く、車椅子が必要な患者さんの場合は先にCTを行うことがあります。また、特に残便感が強い、怒責時間が長い患者さんは機能検査治療に移っていただきます。
薬剤治療に関しては、当院に来る患者さんのほとんどが既に便秘薬を使用されているので、まだ使用していない薬剤をチェックします。また、使用している薬剤において効果が見られない場合は薬剤を変更していきます。基本的に刺激性下剤は減らす方向です。
薬剤の変更に関しては、例えば大腸の蝙動運動を活発にしたい場合には消化管運動賦活剤や胆汁酸トランスポーター阻害剤を処方する、また、腹痛の発症がわかっている場合には上皮機能変容薬を処方するなどします。なかなか効果が出ない場合は、1ヶ月毎に薬剤の組み合わせを変えて治療に当たります。また、残便感が強い、怒責時間が長いといった難治性の患者さんの場合は薬剤治療だけでなく、患者さん自身の肛門の動きを意識化するバイオフィードバック療法3)なども提案しています。
バイオフィードバック療法は骨盤底筋協調運動障害の治療として導入されました。主に便失禁の患者さんに行われる治療法で、保険適用ではありませんが、排便パターンを回復するとともに直腸感覚の改善にも良い影響を与えるため便秘症への効果も期待されています。
他科からの紹介は精神科が多いです。向精神薬を服用しているので、薬剤性の便秘症になり易い。ほとんどの場合、うつ病や神経性食思不振症などを併発しており、治療が困難です。薬剤は処方しますが、基本的には精神科の医師に任せるようにしています。

7. 国内での便秘外来開設を推進するために

院内における啓発が不可欠

院内においては啓発が必要だと思います。特に、高齢の便秘患者さんにおいては、腎機能状態に注意しながら投薬しなければならない便秘薬も存在します。また、便秘は直接命に関わるわけではありませんが、難治性で非常に困っている患者さんが数多くいます。こうした現状を知らせることが重要なのではないでしょうか。
便秘症については、以前は使用できる薬剤も少なかったため、治療法も限られていました。しかし、現在は薬剤の種類も増えて、治療の選択肢が増えています。便秘症で困っている患者さんに十分に対応できるようになってきていると思います。
患者さんは最初に市販薬の刺激性下剤を使用し、効果がなくなるとクリニックに相談します。難治性の場合は、当院のような大学病院に紹介されてくる。そうした患者さんは自分の便秘のことを知りたい、治したいという気持ちを強く持っています。患者さんの多くは便秘を非常に気にしているので、その不安を治療で解決していきたいと思います。

【文献】
  • 1) Adil E Bharucha, et al. American Gastroenterological Association technical review on constipation. Gastroenterology. 2013 Jan;l44(1):218-38
  • 2) Miguel Minguez, et al. Predictive value of the balloon expulsion test for excluding the diagnosis of pelvic floor dyssynergia in constipation. Gastroenterology. 2004 Jan;l 26(1):57-62
  • 3) Rao SS, et al. Randomized controlled trial of biofeedback, sham feedback, and standard therapy for dyssynergic defecation Clin Gastroenterol Hepatol. 2007 Mar;5(3):331-8
監修

大阪公立大学医学部附属病院 消化器内科
部長内視鏡センター長

藤原 靖弘 先生

1988年大阪公立大学(旧:大阪市立大学)医学部を卒業。同大学医学部附属病院研修医を経て、1992年米国カリフォルニア大学アーバイン校に留学。2002年大阪公立大学大学院消化器内科学(旧:大阪市立大学大学院消化 器器官制御内科学)講師、2007年同大学准教授となる。2016年より同大学教授。

監修

大阪公立大学大学院 医学研究科

小林 由美恵 先生

※大阪市立大学は大阪府立大学と統合し、2022年4月に大阪公立大学として開学しました。