透析患者さんの慢性便秘症は
生命に関わる疾患と認識し、排便管理を行う

福岡赤十字病院腎臓内科部長

満生 浩司先生

ここがポイント
  • 慢性腎不全における便秘の原因は①食事療法、②尿毒症、③糖尿病や高血圧などの原疾患、④血液透析、⑤治療薬と複合的である
  • 慢性便秘症は血清リン値や貧血など透析患者さんの全身状態にも影響する
  • 重症な便秘の持続によっては腸閉塞となり、透析患者さんにおいてはドライウエイトにも影響し、場合によっては腸管穿孔など生命の危険に関わる可能性がある
  • 近年、便秘の全身臓器に与える影響などが報告されている

保存期腎不全と末期腎不全(透析時)では治療背景が異なるので、それぞれに合った便秘治療法を考える。

監修 福岡赤十字病院腎臓内科部長 
満生浩司 先生

慢性腎不全の患者さんは便秘が多いとの
報告がある1)。慢性腎不全の便秘の原因について
どのように考えるか。

食事療法の影響

腎機能が低下するとカリウムの排泄減少による高カリウム血症が予測されるためカリウム制限が行われます。カリウムは野菜やイモ類など食物繊維を含むものに多く、これらの摂取は制限されます。カリウム制限すなわち食物繊維制限となり、これが便秘の原因となります。

尿毒症と腸内環境

尿毒素(ウレミックトキシン)が腸内の善玉菌と悪玉菌のバランスを崩し、便秘をもたらすと言われています。さらに、腸内を酸性に傾ける酢酸や腸粘膜機能を正常に保つ酪酸といった短鎖脂肪酸の減少によるpHの上昇も便秘の原因となります。
また、尿毒症の原因物質であるインドキシル硫酸の前駆体インドールは、腸内細菌の酵素によって作られるという悪循環の関係にあります。

慢性腎不全の原疾患

慢性腎不全の主要な原疾患となる糖尿病は、腸の蠕動運動や機能を低下させるので便秘が起こります。また、内臓脂肪の蓄積や肥満をもたらす脳血管障害なども便秘の原因となります。

透析の影響

透析は1回で2〜3kgの水分が取り除かれます。短時間で多量に除水するため、腸内は非常にドライな環境となり、便の水分量や腸管の血流が減少します。虚血状態になると腸の動きは鈍くなり、便秘が誘発されることになります。
また、透析治療中の4〜5時間は、基本的に自由に動くことができませんので、治療中の排便を極度に嫌います。そのため、「透析前には絶対に下剤を飲まない」と言う患者さんも多くいます。透析患者さんは、週に3回のペースで透析を受けるため不規則な生体リズムであり、そのことも便秘の原因の一つになっていると思われます。慢性便秘症の場合、通常、毎日の下剤服用が推奨されますが、透析患者さんの場合は、透析を行った日の透析終了した後や透析治療を行わない中日に下剤を服用する方が多く、透析を行っていない患者さんとは、違ったリズムがあります。

治療薬の影響

慢性腎不全疾患において処方される薬剤として、利尿薬や陽イオン交換樹脂、球形吸着炭などの治療薬があり、慢性便秘症をおこす薬剤として知られています。透析で処方されるセベラマー塩酸塩や沈降炭酸カルシウムなどのリン吸着剤も便を硬くする原因となる可能性があります。
血清リン濃度が高い透析患者さんほどリン吸着剤を多く服用しなければなりません。しかし、リン吸着剤は体内に吸収されず便の中に留まるので、服用量が増えるほど便に含まれるリン吸着剤は増加し、硬便となり排便がますます困難になっていきます。最近、リン吸着剤の処方量が多い方ほど血清リン濃度が高いというデータが報告されました2)。錠数が多いことで、服薬アドヒアランスが低下する傾向が示されています。
透析患者さんにおけるリンコントロールは、血管石灰化予防のために非常に重要となります。そのため、薬剤の副作用としての便秘症の管理も重要と言えます。適正な便秘治療を行うことは、リンのコントロールにもつながる3)と考えます。

慢性腎不全と透析の治療背景と慢性便秘症

慢性腎不全と透析は全く治療が異なる

慢性腎不全として症状がでていても透析治療を行う前の状態を保存期腎不全と定義されますが、腎機能低下が進行すると末期腎不全となり透析治療が開始されます。利尿剤や高カリウム血症治療薬、球形吸着炭などにより腎保護的に治療を行っても尿毒症になるようであれば、透析療法開始となります。結果、尿毒症への対応だけでなく、週3回の除水、高リン血症のためのリン吸着剤の服用など新たな治療も介入します。腎機能をできるだけ保持し腎不全の進行を遅らせることを目的とする保存期腎不全の場合とは全く治療方法が変わります。
透析期で注意が必要なのは除水設定、透析終了時の目標体重つまりドライウエイトの設定です。厳しく設定し過ぎると腸内がドライに傾いてしまい、硬便となり便秘を誘発します。便の硬さ、排便回数などの状況を鑑みてドライウエイトの設定を変更する必要もあります。下剤の種類の選定に関しては保存期腎不全と透析期とで大きく変わることはありません。

糖尿病性腎症

腎不全の原疾患によっては便秘が起きやすいものもあります。糖尿病性腎症の患者さんの場合、便秘の頻度、重症度ともに高い傾向があるように感じます。糖尿病の場合は神経障害で腸の動きが悪くなっていることもあるため、刺激性下剤を処方することが多いのですが、継続使用とともに、効果が低下し服用量が増えてしまう傾向があります。最終的には、耐性のために効果がみられなくなってしまうこともあります。こういったやめるにやめられない便秘の悪循環を私自身も経験しました。
近年、新しい作用機序の便秘薬が次々と保険適用となりました。腎機能低下の場合、体内の電解質に影響のない薬剤選択を考慮します。上皮機能変容薬やラクツロースなど様々な薬剤が使用できるようになりましたが、薬剤の効果は患者さんの個人差が大きく、ある患者さんに効果があっても、別の患者さんには効かない場合もあります。基本は、便が硬ければ軟らかくし、下痢状であれば、便の形を整えるように便秘薬の量を調整しながら患者さんの状況に応じて便秘薬を選択するようにしています。

透析期における便秘の注意点

透析患者さんの便秘症は命に関わる疾患

便秘症の患者さんの治療に対して、私自身の意識が変わったきっかけとして、透析患者さんの便秘では腸管穿孔となる危険性があり、便秘が単にお腹が張るなどの苦しい症状だけではすまされない、生命に関わる疾患だと実感したことがあります。私たちは第一に生命の安全を重視した排便管理を行わなければなりません。また、透析患者さんにとって、排便管理は血清リン値や貧血の管理など患者さんの全身状態に影響する可能性があります。
穿孔のリスクもあるため、高度な宿便への対応も重要です。宿便のために結腸部分が拡張し、透けて見えるような薄い状態になることもあります。また、宿便の状態では、ドライウエイトの設定、管理が困難となります。宿便によって生じる2〜3kgの体重差は、透析患者さんにとっては、透析時の水分除去量などにも影響しますので、場合によっては命に危険が及ぶ可能性があります。こういった背景から、当院では便秘症状が重い患者さんの場合、CT画像で宿便の状態を確認するなど、安全性を十分に考慮した対応を行っています。

透析患者さんの気持ちから排便コントロールを考える

便秘で苦しい、しかし、透析治療中の排便(便意)を考えて下剤の使用を控えてしまう、そんな透析患者さんの特徴もありますが、便秘で苦しむなら遠慮なく薬剤を使用することで便通を良くして、リスクを減らしてほしい、という医療人としての気持ちもあります。やはり、大切なのは患者さんに対する説明をしっかり行うことです。宿便によるリスクが高いということを伝え、患者さん自身が便通を良くすることに対して同意していく状況をつくることが重要だと思います。
浸透圧性下剤の酸化マグネシウムを使用する場合、透析患者さんでは高マグネシウム血症を心配して血中Mg濃度が4〜5mg/dl以上にならないよう服用に気を使います3,4)。しかしながら、酸化マグネシウムだけでは便通コントロールは難しく、結果として即効性のある市販の刺激性下剤を使用することも多いのです。その場合、やがて耐性ができて効果が無くなっていきます。腸管の動きも悪くなり、悪循環が繰り返されることになります。
近年、便秘治療薬の種類が増えたことは透析患者さんにとっては大きなメリットでしょう。透析患者さんは、慢性便秘症の方が多いので、ポリエチレングリコール製剤や胆汁酸トランスポーター阻害剤、上皮機能変容薬など新しい作用機序による便秘治療薬が登場してきたのは福音だと思います。

*胆汁酸トランスポーター阻害剤及び上皮機能変容薬には、効能又は効果に関連する使用上の注意に、薬剤性及び症候性の便秘に対する使用経験はない、と記載がある。

便秘問診のマニュアル化とチーム医療としての取り組み

一般の外来診療ではまだ行っていませんが、透析患者さんの場合は便通の回数や性状を積極的に聞くようにマニュアル化しています。極端な例では2週間排便が無いような患者さんもいますが、医療スタッフ側がそれを把握できていないこともあります。そのため、便通に関する質問をマニュアル化し、患者さんの排便状況を日頃からチェックするようにしました。毎回、便通の状態を把握し、医療スタッフ全員で情報共有しています。現在では、チーム医療として、便秘対策を取り組む体制となりました。

慢性腎不全における慢性便秘症の関心の高まり

慢性便秘症が学会のテーマに

腎臓病や透析に関連する学会ではたびたび便秘をテーマに取り上げており、便秘解消による血清リン濃度の改善といったデータも報告5)されています。また、便秘に関しては腸内細菌との関連性が指摘され、腸内細菌と腎臓といったテーマでシンポジウムも行われました。今日では便秘に注目したテーマも多くみられます。

透析治療の選択で、大腸通過時間が変化する6)

便秘の原因の一つとして、大腸通過時間が遅延することが挙げられます。近年、この大腸通過時間を調査するような研究もおこなわれています。血液透析患者、腹膜透析患者、健常成人において、大腸通過時間が比較されました。大腸通過時間が最も遅かったのは血液透析患者で43.0±22.2 時間、腹膜透析患者が32.7±13.7 時間、健常成人は24.3±11.9 時間という結果です。大腸を右部、左部、直腸S状部に分けてそれぞれ通過時間を調べたところ、右部と直腸S状部での通過時間が遅延していました(図1)。さらに、便秘の有無による血液透析患者および腹膜透析患者、健常成人の大腸通過時間をくらべてみると、最も遅かったのは便秘している血液透析患者でした(図2)。

図1 血液透析患者、腹膜透析患者、健常成人における各部および全体の結腸通過時間の比較(海外データ)
図2 便秘の有無による血液透析患者、腹膜透析患者、健常成人における結腸通過時間の分布(海外データ)
【対象】
血液透析患者群:56名(男性29人、女性27人、平均年齢53.1±10.6歳、年齢範囲24〜75歳)腹膜透析患者群:63名(男性30人、女性33人、平均年齢50.3±11.0歳、年齢範囲21〜73歳)健常成人群:25名(男性13人、女性12人、平均年齢51.9±12.1歳、年齢範囲26〜74歳)
糖尿病、重度の二次性副甲状腺機能亢進症、および重度の透析患者は除外
【利益相反】
無し

Wu MJ, et al.: Am J Kidney Dis 2004; 44(2): 322-327

また、透析の種類によって、透析液中の電解質濃度が異なります。腹膜透析では、透析液にカリウムが含まれていないため、血中のカリウム濃度が下がりやすい傾向となり、食事によるカリウム制限は緩くなります。カリウムは、野菜等にも多く含まれていますので、血液透析と比べると、結果的に腹膜透析の方が食物繊維の制限が減ることで便通がよくなる傾向もあります。また、腹膜透析は腹膜により365日24時間、血液濾過が行われているため体内水分量に大きな変化がありません。血液透析は、基本的に週3回、1回の透析治療あたり2〜3kg除水するため体液の増減があります。腹膜透析には、この大きな変化がほとんどなく、おそらく、腸内における水分量もあまり変化がないことも便秘の有症率に差があると考えられます。実際に便秘発症率を調べてみたところ血液透析が約60%、腹膜透析が約30%との報告もあります1)
透析療法は、体内に与える影響も大きく継続的な治療となりますが、その中で、便秘症という疾患をいかにコントロールすべきか、新しい知見を踏まえながら考慮していく必要があると言えます。

腎臓内科における便秘症の位置づけ

世間一般において便秘は疾患というよりもヘルスケア、つまり健康管理として捉えていると思います。多くは排便だけを目的とする刺激性下剤が処方されているような実態もあると思います。しかし、便秘が全身に与える影響が報告7,8)され、状況は変わりつつあります。これまでのように「出ているから大丈夫」といった状況確認だけでは不足する情報も多いと言えます。
慢性腎不全疾患における便秘の考え方としては2つあります。1つは保存期腎不全においてCKD対策として食事指導をはじめ利尿剤や吸着薬、高カリウム血症治療薬などの治療とともに便秘対策も実施する。もう1つは全身管理の1つとして便秘を捉え、安全管理、臓器保護につないでいく。透析患者さんのQOLやADLを上げるという点において重要な問題ですので、ぜひ便秘治療に注目していただきたいと思います。

【参考文献】
  • 三島英換 他. 日内会誌 2017; 106(5): 919-925
【引用文献】
  • 1) Yasuda G, et al.: Am J Kidney Dis 2002; 39(6): 1292-1299
  • 2) 伊藤恭子 他. 透析会誌 2016; 49(7): 475-482
  • 3) 齊藤 曻. 日老医誌 2011; 48(3): 263-270
  • 4) 中司敦子 他. 透析会誌 2004; 37(2): 163-168
  • 5) 王 麗楊 他. 透析会誌 2018; 51(10): 617-620
  • 6) Wu MJ, et al.: Am J Kidney Dis 2004; 44(2): 322-327
  • 7) Chang JY, et al.: Am J Gastroenterol 2010; 105(4): 822-832
  • 8) Sumida K, et al.: J Am Soc Nephrol 2017; 28(4): 1248-1258
監修

福岡赤十字病院腎臓内科部長

満生浩司 先生

1990年九州大学医学部卒業、九州大学第2内科入局。1998年松山赤十字病院腎センター副部長、2008年福岡赤十字病院腎臓内科副部長を経て2016年より現職。
日本内科学会 認定内科医・総合内科専門医、日本腎臓学会 専門医・指導医・評議員、日本透析医学会 専門医・指導医・評議員・理事、日本移植学会 移植認定医