大腸肛門疾患の専門施設として取り組む便秘治療

大腸肛門病センター高野病院
院長

髙野 正太先生

慢性便秘症治療のポイント
  • 排便回数減少型と排便困難型では治療法が異なるので、その見極めが重要である
  • 排便回数減少型は、食事、運動、生活習慣の見直しを基礎に置き、刺激性でない便秘治療薬をサポートとして使用する。機能性便排出障害は、便排出のリハビリを基本としてお腹の体幹筋や骨盤底筋の使い方を指導する
  • 治療ゴールは設定せず、治療前よりも改善していることを、患者に説明しながら治療を行う
  • 薬剤は基本的に刺激性下剤を使用せず、患者さんの症状に合わせて、刺激性ではない便秘治療薬を使用する

監修大腸肛門病センター高野病院 院長 髙野正太先生

1. 慢性便秘症の分類

慢性便秘症についての考え方

まず、便秘は器質性と機能性に分けることができます。器質性とは腫瘍や瘤、直腸重積などによって腸が変形して便秘になるもの、機能性とは何らかの原因によって腸の働きが不全になり便秘になるものです。さらに、この2つを排便回数減少型と排便困難型に分け、3つのタイプで考えることができます(図)。排便回数減少型における、大腸通過遅延型は腸の動きが不足している、何かが便の通過障害となっている、などの理由で直腸までの時間がかかっている状態です。また大腸通過正常型では、食物繊維摂取不足を含む、経口摂取不足や、硬便による排便困難・残便感が挙げられます。機能性便排出障害は便が直腸にまできているのにもかかわらず、肛門が変形して出せない状態を言います。

図 便秘の分類と原因

便秘の分類と原因

髙野正太(2021). うんちエイジング便秘治療のウソホント 柏艪舎 p.21

器質性便秘について

大腸がんや直腸瘤、直腸重積を原因とする器質性便秘はほとんどの場合、消化器外科で治療されます。直腸瘤は悪性ではありませんが、女性に多い疾患です。原因の1つは直腸と膣の間にある組織が弱くなり、直腸前壁がポケット状に膨らみ膣側に飛び出してしまうパターン。もう1つは直腸や骨盤周辺の筋肉組織が弱くなって骨盤が下垂し、直腸が押し出されてしまうパターンです。便秘を訴える女性患者さんの原因が直腸瘤である場合、下剤を服用してもあまり意味がありません。

2. 機能性便秘に対する便秘治療

大腸通過遅延型、大腸通過正常型と機能性便排出障害の違いを見極める

それぞれの病態では治療法が変わってくるので、その見極めが大切です。
直腸に便がありながら排便できない患者さんに下剤を処方すると、腸の中で水便になり、肛門から便が漏れてしまいます。 機能性便排出障害の患者さんでも排便のためには便を柔らかくしなければならないので、下剤は無効ではありません。しかし、根本的な治療にはならないため、そうした患者さんには肛門・骨盤のリハビリによるトレーニングを勧めています。リハビリを伴う治療を行うと、回復後、下剤を必要としない場合があります。

3. 便秘の評価方法

排便造影検査と感覚検査に重きを置く

排便造影検査に重きを置いています。肛門からバリウムを注入し、排出するところをレントゲン撮影するものです。通常の排便と同じように便座に座って行うので、非常に病態が分かり易い。患者さんにとっては羞恥心の伴う検査ですが、病態を知るには非常に便利です。現在、当院では全ての患者さんに行っています。
加えて行っているのは直腸と肛門の感覚検査です。患者さんの中には便が直腸、肛門にまで来ていることに気づかない方がいます。バルーンや電気刺激を使って感覚を数値化し、患者さんにそのことを知ってもらいます。

4. 世代別による便秘の特徴

就学期に多い過敏性腸症候群による便秘

小、中学校、高等学校では子どもたちが恥ずかしさから校内で大便ができず、溜め込んでしまうケースがあります。さらに、それが原因でストレスになり、過敏性腸症候群になってしまうこともあります。本人は強く意識していないのですが、過敏からお腹が痛くて便が出ない患者さんは多いです。こうした患者さんにはメンタルケアをすると共に、規則正しい生活と繊維を多く含む食事を指導します。

社会人には排便リズムを推奨

青年から中年になると社会人ですので、仕事や暴飲暴食などが原因で便秘になることが多い。仕事が忙しいとどうしても排便を我慢してしまいます。その結果、排便の我慢→直腸感覚の低下→水分吸収による便の硬化→便の増加→直腸の拡張→更なる直腸感覚の低下、こうした悪循環に陥ります。仕事中での排便が難しい方には一日の排便リズムを作ることを勧めています。計画排便の提案も重要な治療の要素となります。

筋力低下により排便の力が弱くなる高齢者

高齢者の場合、女性だけでなく男性も便秘が増えていきます。慢性便秘症診療ガイドラインによると、高齢者の便秘の要因は「腸管を動かすための神経細胞の減少」「直腸感覚の低下」「骨盤底筋の協調運動の低下」「運動量、食事量の低下」「基礎疾患、薬剤」などが挙げられています1)。筋力が低下すると排便する力は弱くなりますが、排便力低下には体幹筋トレーニングが有効です。

5. 便秘治療の実際

生活習慣の見直しを基本とする排便回数減少型

特に、排便回数減少型の患者さんには、食事、運動、生活習慣の見直しを基礎に置き、そこに刺激性でない便秘治療薬をサポートとして使用するという治療を行います。さらに腹部へのマッサージ、ねじりのある運動などを行って腸管を刺激します。

便排出のリハビリを基本とする排便困難型

排便困難型の患者さんには便排出のリハビリを基本にお腹の体幹筋や骨盤底筋の使い方を指導します。体幹筋とは内臓の周りの筋肉ことで、これを鍛えることにより正しい姿勢の保持や呼吸の安定にも役立ちます。感覚障害がある場合には電気治療を行います2)

6. 便秘治療のゴールについて

治療前より改善していると認識させる

あえて治療ゴールは設定していません。治療前よりも改善している、前よりも治療が進んでいる、そう患者さんに説明しながら治療に取り組みます。しかし、若い人の中には早く便を出したいということで刺激性下剤を求める患者さんがいます。そうした患者さんはそれを治療ゴールと考えているので、お通じは毎日出す必要はなく、週に何回か気持ちよく出せれば良いと説明しています。

7. 重症化への対応

入院して病院管理の元で治療

外来診療で食事療法や運動療法、薬剤療法を行って改善がない場合は入院です。入院していただき、病院管理の元で集中的に食事療法、運動療法、薬剤療法を行います。それでも改善が見られない場合は最終的に手術となります。刺激性下剤の長期連用により大腸の腸管運動が減弱し便秘が重症化すると、大腸の摘出手術が必要になることがあります。

8. 患者さんのアドヒアランスについて

アドヒアランスは看護師が対応に当たる

時間をかけて患者さんの生活状況や症状を聞き、指導することが大切だと考えています。しかし、診療時間には限りがあるので、当院では看護師が患者さん 1 人に対して約 1 時間かけて指導するようにしています。治療継続のためにはアドヒアランスが重要で、ここは時間をかけるしかありません。治療そのものは医師が担いますが、アドヒアランスはコーディオネーター的な役割も兼ねるので看護師や薬剤師に任せてもいいのではないかと考えています。

9. 便秘薬の選択基準

基本的に刺激性下剤は長期間、漫然と使用しない

年齢に関わらず、刺激性下剤は使用しないことが基本と考えています。旅行中に便が出にくくなった場合などに頓服で使用するのは問題ありませんが、長期に連用すると腸管運動が減弱し便秘が増悪する場合があります。酸化マグネシウムも長期投与によって高マグネシウム血症を発症するケースも存在するので、注意が必要です。
ここ数年で刺激性ではない便秘治療薬が幾つか登場しました。ルビプロストン、リナクロチド、エロビキシバット、ポリエチレングリコール製剤、ラクツロースなどですが、それぞれ特徴があるので、患者さんの症状に合わせて処方するようにしています。また、漢方薬にも便秘に有効なものがあり、処方を検討する場合があります。

【文献】
  • 1)日本消化器病学会関連研究会 慢性便秘の診断・治療研究会編 慢性便秘症診療ガイドライン 2017;p31
  • 2)日本大腸肛門学会 便失禁診療ガイドライン 2017 年版;p66-69
監修

大腸肛門病センター高野病院 院長

髙野 正太 先生

1999年東京医科大学医学部卒業後、慶応義塾大学病院外科および一般消化器外科を経て2005年特定医療法人社団高野会高野病院に勤務。2010年Cleveland Clinic Florida, Department of Colorectal SurgeryにてFellow ship。2013年に特定医療法人社団高野会 高野病院 医長、2014年には社会医療法人社団高野会大腸肛門病センター高野病院 肛門科部長および大腸肛門機能診療センター長に就任。2017年から高野病院 副院長、2021年に院長に就任。日本大腸肛門病学会専門医・評議員/日本外科学会会員