便秘治療の治療ゴールとは?
便秘治療の全体像と排便日誌の活用のすすめ

ここがポイント
  • 【図解】便秘治療の全体像 ― 初期と継続期それぞれの重要なポイント
  • 治療の継続期は薬物治療と生活習慣改善を両輪で実施
  • 排便日誌の活用法:【ダウンロードあり】

便秘治療のゴールは、「毎日の排便」ではなく、患者さんが訴える症状を軽減し、「患者さんが満足した状態になること」です。便秘治療は長期に渡るため、治療初期の導入や継続期の指導やちょっとした声掛けで医師と患者さんとの信頼関係を作ることが継続治療へのカギとなります。

監修横浜市立大学大学院医学研究科・肝胆膵消化器病学教室 中島淳先生

便秘治療の全体像
― 初期と継続期それぞれに応じた対応を

治療初期で重要なポイント

便秘を訴える患者さんは、軽症から重症まで多様であり、患者さんの捉え方もそれぞれ違い、治療効果も一定ではありません。そうした患者さんに同じ薬を同じように処方した場合、「便秘症状の改善効果が出る」、「下痢症状が出る」、「効果がない」という3つの結果に分かれます。改善効果が出た患者さんだけでなく、下痢症状もしくは効果がなかった患者さんも治療離脱をさせず、継続治療へと導くことが治療初期の大切な視点です。

治療初期で重要なことは、患者さんのアドヒアランスの向上です。そのため、下痢症状が出た場合は減薬もしくは休薬、効果がなかった場合は次の段階の治療法を提案するなど、薬剤の反応を見極めて、それぞれに応じた適切な対応をすることがアドヒアランス向上に寄与し、継続治療への一歩に大きく関わってきます。
治療の全体像を患者さんに示しながら、「今回のお薬の反応は人によって違いますので、ちょうどよい場合、少し効きすぎて下痢になってしまう場合、効果が出ない場合の3つに分かれるので、1〜2週間後にまた来てください。服薬してどのような症状が出ても、反応に応じた調整をしていきますので大丈夫ですよ」と声掛けすることが継続的な治療につなげるための大事なポイントです。薬剤の即効性が実感できず、治療の全体像が見えなければ、患者さんは治療離脱してしまいます。初期治療の段階で「便秘治療はある程度時間がかかること、継続治療で治していくもの」と伝え、理解してもらうことが必要です。
また、下痢症状が出た場合は、患者さんの生活に支障が出てしまいますので、減量してもいいことを伝えることも大切です。病院で処方してもらった便秘薬では下痢をしてしまうという概念を植え付けないことも大事です。効果が出なかった場合のために、刺激性下剤を頓服で処方しておくことも、市販されているOTCの下剤などを乱用しないことにもつながると考えられます。

便秘治療の全体像:治療初期
便秘治療の初期フロー図

治療継続期で重要なポイント

継続期では、ブリストル便形状スケールのタイプ4で示している「バナナ状便」で排便することを目標として継続治療をしていきます。便が固いと排便に時間がかかり、水様便は頻繁にトイレに行くことになり、いずれも患者さんの負担があります。バナナ状便とは、力むことなく、短時間で排便できる理想的な便の形だけでなく硬さであることを示しています。薬剤を処方するだけでなく、薬剤を増減して効果判定しながら、徐々にバナナ状便に近づけていく調整が非常に重要です。

1度でもバナナ状便で排便できれば、ほとんどの患者さんはすっきりとした爽快感に納得し、引き続き治療を継続します。バナナ状の便形状を目指していくことで、患者さんの悩みが解消し、QOLや満足度が向上した状態になることが治療のゴールです。また、患者さんに、「数年かかって築いてきた排便習慣を変えるには、同じくらい時間がかかる」ということを伝えて理解していただき、同じ方向を目指していきます。それにより、医師と患者さん双方が理解し、同じゴールを目指していくことが、今後の便秘治療のあり方で重要といえると考えます。

便秘治療の全体像:継続期
便秘治療の継続期フロー図

生活習慣と排便習慣の改善のコツ

生活習慣と排便習慣の改善指導

便秘治療の継続期では、薬物治療のほかに、食事や運動および生活習慣の改善により、本質的な改善に向けていく指導を行います。慢性便秘症は、生活習慣が原因で増悪することが多いため、便秘治療の継続期では、この点を患者さんに十分に説明したうえで治療に当たると、治療効果も上がり、患者満足度も高まっていくことでしょう。

継続期の治療の第1段階では、生活習慣と排便習慣の改善を実践することを促します。
生活習慣では、「朝食の摂取」「偏食や食事量の減少を避ける」「十分な水分補給」「適度な運動」を指導します。特に、朝食は食事反射による排便が強くあらわれるため、排便習慣を整える上で大変重要です。食事指導では、食物繊維の多い野菜や果物、マグネシウムの豊富な食品、腸内フローラを改善するプロバイオティクスなどの摂取を勧めます。

排便習慣では、排便姿勢と、便意を我慢させず、便意がきたらそれを逃がさないように指導し、排便反射を正常に戻すことを目指します。また、排便日誌を活用して毎日の排便状態を正確に記録することも、排便習慣を整えるうえで有効です。

生活習慣と排便習慣改善のコツ
生活:定期的な排便習慣、便意を我慢しない、無理なダイエットを避ける + 食事:朝食が重要、十分な水分摂取、植物繊維を選んで摂取、マグネシウムも意識、善玉菌を増やす + 運動:毎日の適度な運動、ストレス発散、冷えにも注意

生活習慣、食事指導を組み合わせて行い、指導を行うことにより
症状改善効果が上がり、治療満足度を上げることができると考えられる。

排便習慣改善に向けた排便日誌の活用

便秘治療においては、患者さんの排便習慣を医師と患者さん双方が把握し、目を向けていくことが重要です。排便習慣を把握するためには、排便日誌を活用するとよいでしょう。
排便日誌は治療初期、継続期に応じた活用方法があります。初期には、患者さんに記録してもらうことで、患者自身も自分の排便状況を把握することに関心を向けることができ、医師も排便状況を正確に把握できます。このことから、排便日誌は、治療方針の策定や患者さんとのコミュニケーション円滑化に役立ちます。継続期には、患者さんの排便をバナナ状便(ブリストル便形状スケールのタイプ4)に近づけるために、治療の効果判定や薬剤の調整を進めていくうえで有用です。

日誌に記録するのは、「排便時刻」「便の硬さ」「便の量」で、便の硬さはブリストル便形状スケールに基づいて評価します。便秘薬の服用状況や腹部の症状、食事内容は気づいた範囲で記録してもらいます。排便日誌は患者さんの排便状況を正確に把握できるとともに、治療に臨む患者さんの意欲向上効果も期待できるツールです。

排便日誌と指導のポイント

次の6点を患者さんにメモしてもらいましょう
  • 排便のあった「朝・昼・晩」×「ブリストルスケールの形状」
  • 残便感、スッキリ度合い
  • 1週間の排便回数
  • 食事の有無、量、内容
  • 服薬状況、薬の増減、休薬の状態
  • その他、気になる症状

以下のボタンからダウンロードしてご活用ください。

  • ※ダウンロード版はA4 PDFとなります。
監修

横浜市立大学大学院医学研究科・肝胆膵消化器病学教室
主任教授 診療部長

中島 淳 先生

1999年から2001年までハーバード大学客員准教授を務め、腸管免疫の研究にあたる。医療従事者向けの「慢性便秘症診療ガイドライン」作成メンバーとして尽力し、海外の便秘薬や最先端治療に精通。
※2019年3月現在の情報です。