「お腹も心もスッキリ」を目指す便秘外来治療

広島大学保健管理センター
教授

日山 亨先生

慢性便秘症治療のポイント
  • 排便回数よりも便の形、ブリストル・スケール1)4を目指して治療を行う
  • 高齢者の場合には必ず大腸内視鏡検査により、がん等の器質性疾患の除外を行い、患者さんに安心感を与えるようにする
  • 最初に機能性便秘と便秘型過敏性腸症候群を判別し、それぞれに適した治療を行う
  • 薬剤が効き過ぎると患者さんのアドヒアランスが低下する場合があるので、なるべく下痢に傾かないようにする

監修広島大学保健管理センター 教授 日山亨先生

1. 大学病院における便秘外来の位置づけ

便秘を主訴とする患者さんの増加

2020年10月に便秘外来を開設し、週に1回、木曜日に患者さんを受け付けています。消化器内科の外来は機能性胃腸障害である胸焼けや胃痛の患者さんが多いのですが、便秘に悩んでいる患者さんも結構いらっしゃいました。加えてここ数年間で便秘治療薬の選択肢も増えてきたので、専門外来を立ち上げる機運が高まりました。
便秘外来を標榜してからは、明らかに便秘を主訴とする患者さんが増えています。院内他科から紹介される患者さんも多くなりました。また、胸焼けや胃痛を訴える患者さんの話を聞いてみると、便秘との関連が考えられるケースが少なからず出てきます。そうした患者さんも増えてきているという状況です。
他科からの紹介で最も多いのは消化器内科からで約半分を占めます。あとは産婦人科、呼吸器内科、精神科、ちょっと変わったところでは耳鼻咽喉科などがあります。胸焼けや咽頭違和感は胃食道逆流症が関係するため、耳鼻咽喉科で消化器系の薬剤を処方するケースが増え、問診で「便秘がある」という患者さんはこちらに紹介されてきます。

2. 治療についての考え方

排便回数よりも便の形を重視

私は排便回数ではなく、便の形を正常にすることに重きを置いています。ブリストル・スケールの4、バナナ形状に近くなることを目指します(図)。例えば、排便は週に1~2回しかないが便形状は良い、という患者さんの場合、私はそれで良いと言っています。人によっては消化が良くて便量が少ないことがあり、その場合は当然、排便回数が少なくなります。しかし、患者さんはどうしても、回数、便の硬さ、便の出にくさ、残便感、この4つを気にします。そうした患者さんに対しては「日本人に比べ、欧米では毎日排便していない人が多い」と繰り返し説明しています。

ブリストル・スケール(BRISTOL STOOL SCALE)

1)Lewis SJ, et al.: Scand J Gastroenterol 1997; 32: 920-924 より改変

話の長い患者さんにも対応

便秘外来の患者さんは話の長い人が多く、毎回1人か2人は20分以上の診察を希望される患者さんがおられ、そうなるとすぐに1時間は経ってしまう。そうした場合は覚悟を決めて診察に当たっています。

3. 便秘診療の実際

高齢者には必ず行う大腸内視鏡検査

高齢の患者さんはがんなどによる器質性疾患の可能性があるので、必ず大腸内視鏡検査を行います。器質性疾患の除外を速やかに行い、患者さんに安心してもらいます。若年患者さんの場合も大腸内視鏡検査を勧めますが、場合によっては便潜血を行なった結果により、大腸内視鏡検査を行うかどうかを決めることもあります。腹部エコー検査による腸管壁の状態、血液検査による甲状腺機能、貧血の有無などのチェックも行っています。
大学病院の大きな特徴の1つは検査精度です。診断精度が高いので、信頼性があります。さらに診療科も多いので、合併疾患のある患者さんにとっては、それぞれの専門医に診察してもらえるため、安心につながっていると思います。また、大学では多数の医療雑誌へのアクセスが可能であり、常に最新のエビデンスに基づいた診療を行うことができます。

機能性便秘と便秘型過敏性腸症候群

便秘は大きく「機能性便秘」と「便秘型過敏性腸症候群」の2つに分類できると考えています。
機能性便秘については酸化マグネシウムなどの浸透圧性下剤から開始し、それで効果のない場合は、作用機序の異なる便秘薬を使用します。例えば、頓服で刺激性下剤、また最近では腸管を動かし水分を分泌する新規薬剤も登場し、新たに使用する機会が増えています。更に、これまで刺激性下剤をたくさん使用していた患者さんに対しては「刺激性下剤を使わないのが目標です」と説明します。
便秘型過敏性腸症候群について我々のところでは、すでに他の下剤を使用した患者さんがほとんどであるため、粘膜上皮機能変容薬から開始し、効果のない場合は浸透圧性下剤、大腸刺激性下剤を追加しています。通常の機能性便秘なのか、便秘型過敏性腸症候群なのか、それによって治療法が異なるので、この区別は重要です。
大学病院の医師として、薬剤治療のエビデンスを確立していかなければならないと考えています。少しずつですが、エビデンスは集まってきていますので、将来的には現場にうまくフィードバックしていきたいと思います。便秘が改善しても患者さんの満足度が高くなければ、治療を継続することができません。治療の有効性と患者さんの満足度、この2つが結びつかないとエビデンスの確立は困難です。

4. 治療の有効性と患者さんの満足度

下痢に傾かないことを心がける

臨床での印象からすると、少し便秘気味の方が下痢気味よりも患者さんの満足度が高いと感じます。薬が効きすぎると「トイレが近くなって困る」と一気に満足度が下がります。薬剤療法をするに当たっては食事療法や運動療法なども混じえて、下痢に傾かないようにしています。
便秘の改善と患者さんの満足度は乖離しているわけではありません。ある程度改善がみられなければ満足は得られませんので、そのバランスをどのように取るかが治療のコツだと思います。

薬は徐々に強めていくことがポイント

大学病院の便秘外来を受診される患者さんは、かなり便秘に困っている方々です。アドヒアランスについてはかなり高いと感じています。
アドヒアランスで問題となるのは、効きすぎて下痢になったケースです。場合によっては治療そのものがうまくいかなくなることがあります。患者さんは便秘に慣れており、急に下痢になったりすると治療を止めてしまうことになりかねません。いきなり治療効果の強い薬剤を使用するのではなく、徐々に強めていくことが治療のポイントです。私自身は基本となる薬剤に、頓服で使用するもの、便秘時に追加するものなどを合わせながら治療するようにしています。

患者さんの不安を取り除く

事前説明も大切です。例えば、開始後に腹部膨満感や腹痛、吐き気などが出やすい薬剤であったならば、「そうした症状はすぐ消えることが多いです」「残っている便の影響なので、出たらスッキリします」「溜まっている分を押し出すため、そうした反応が出ることもあります」と事前に話しておきます。
下剤は連用すると効果がなくなると心配をされる患者さんもいますので、「新しい薬はそうした耐性はありませんから、飲み続けても大丈夫ですよ」と話し、不安を取り除くようにしています。
また、薬を飲むこと自体が嫌だという患者さんもいます。「一生、飲み続けるのですか」と聞かれたら、「眼鏡のようなものです。視力が落ちると眼鏡が必要なのと同じで、腸も年齢とともに変化するので補わなければなりません」と説明します。患者さんにはできるだけ抵抗感を取り除くような話し方をしています。

5. 便秘外来が目指すもの

お腹も心もスッキリがモットー

便秘症の患者さんは自分の状況を聞いて欲しい、理解して欲しいと強く訴えます。しかし、多くの患者さんを診なければならない大学病院では、それだけの時間が取れません。そのために便秘専門の外来が開設されました。
広島大学病院の便秘外来のモットーは、「お腹も心もスッキリ」です。大学病院で治療を受けるまで、患者さんは便秘でかなり長い間、心がモヤモヤした状態にあったはずです。本来の治療目的は便秘が改善して満足が得られることです。しかし、それだけでなく「便が出ておなかがスッキリ、同時に心もスッキリ」が目標だと考えています。

監修

広島大学保健管理センター 教授

日山 亨 先生

1991年広島大学医学部医学科を卒業。三次地区医師会立三次地区医療センター、国立療養所賀茂病院の勤務を経て、2002年に広島大学保健管理センター助手となる。2012年に広島大学保健管理センター准教授、2021年4月より現職。