なぜ今、小児の便秘治療が重視されるのか

さいたま市立病院

中野 美和子先生

ここがポイント
  • よくあること、と放置してはいけない。小児の便秘は、成人移行も多い
  • 小児便秘こそ個別化医療。個々に異なる症状に向き合うべき理由
  • 便秘治療はクリニックからー早期の治療開始が小児を救う

小児の便秘は、小児のうちに治さないと、そのまま成人に移行してしまうことも多くQOLが低いまま一生を過ごすことになりかねません。小児便秘では早期の治療開始と、根本的な治療を見据えた治療の継続が重要です。

監修さいたま市立病院 小児外科 中野美和子先生

たかが便秘と侮るなかれ。

人生100年時代。小児便秘の放置は一生のQOL低下をまねきかねない

小児便秘は小児のうちに治療すれば治すことが可能です。症状が軽症であれば、小児の成長過程で自然に治癒することもある一方で、症状が重症化するほど、治癒することが難しくなることも言われています。また、治療によって一時的に治ったかのようにみえても、再発してしまいます。根本から治療していないと、成人しても一生便秘に悩み続けることにつながります。

今、人生は100年時代と言われています。小児便秘は小児のうちに治癒しないと、人生の長い年月をQOLが低いまま過ごすことになってしまいかねません。

小児便秘は個々の病態に合わせた治療選択が必要

一口に便秘と言っても、小児便秘は症状が軽症のものから重症のものまで病態のレベルがさまざまです。軽症の場合、治療は運動や食事などの生活指導から始めます。一方で、重症の場合、生活指導だけでは効果が望めないため、生活指導と薬物治療の併用が推奨されます。

しかし、重症の場合でも治療を生活指導から始めている医師も多いようです。保護者は小児の便秘を早く治してあげたいと思っているので、生活指導のみで始める治療に落胆や失望を感じてしまうこともあります。医師はまず保護者のこの思いに寄り添い、理解し、小児便秘をひとくくりにせず、個々の病態に合わせた治療を選択することが必要だと言えるでしょう。

小児便秘の治療はクリニックから始まる。
苦しんでいる子供に目を向ける

早期の治療開始と治療の継続の必要性

小児便秘は早期に治療を開始するほど治りやすいです。ただし、一部の小児は症状が重症化する場合もあるので、その場合、プライマリケアを行うクリニックの医師は、早めに専門医に紹介していただくとよいでしょう。

私自身、「もう少し早めに治療していれば、症状がここまで重症化せずに済んだ」という小児の症例を多くみかけます。

小児は治療が始まるまでの間、ずっと便秘に苦しんでいるのです。クリニックの医師には小児が便秘で苦しんでいる状況にいち早く気付いていただきたいと思います。そして、早めの治療開始が重要となります。

便秘の症状がひどい時だけ、整腸剤などの薬剤を頓服処方される場合も多くあるようです。小児便秘は薬物治療を開始すると、一時的に症状が改善しますが、根本的に治癒できていない場合は再発してしまいます。便秘の病態を理解し、根本的な治癒を目指した治療の継続が必要となります。

治療の第一歩は「便秘で苦しむ子供に目を向けること」から始まる

小児便秘の治療は、目の前で便秘に苦しんでいる小児について、知ることから始まります。小児診療を行う先生方には、まず、小児の排便に関心を持っていただきたいと思います。

現在、便秘治療の際に、小児が苦しんでいる症状を聞き出せないまま、一時的に薬剤を処方し治療を終えていることも多いと感じています。

小児便秘の治療では、苦しむ子供に目を向けて、なかったことにしない、便秘を根本から治療し治癒させるという気持ちを持つことが重要です。

監修

さいたま市立病院 小児外科
学校法人 神戸学園 理事
神戸動植物環境専門学校 校長

中野 美和子 先生

慶応義塾大学病院、国立小児病院(現:国立成育医療研究センター)などを経て、さいたま市立病院小児外科部長。昨年退職し、現在は非常勤で外来を行っている。排便障害を持つ外科疾患の排便管理と合わせ、一般の小児慢性機能性便秘症、特に難治例の治療に携わる。
※2019年3月現在の情報です。