便秘外来の実際 ― 便秘診療のポイントと治療ゴールについて

便秘の治療ゴールは症状を軽減し、QOLを向上させることにあります。
満足度は患者さんによって異なるので、治療ゴールの設定も患者さんによって変わります。

独立行政法人 国立病院機構
函館病院 名誉院長

加藤 元嗣先生

独立行政法人 国立病院機構
函館病院 消化器科 医師

津田 桃子先生

ここがポイント
  • 患者さんの生活情報は便秘治療に役立つので、患者さんに身近な看護師との連携が鍵となる
  • 経過観察問診票は自宅での患者さんの症状を把握するだけでなく、患者さんとのコミュニケーションに有用である
  • 治療ゴールは患者さんの満足度であるので「今がいい」という言葉が治療ゴールとなる
  • 精神科の患者さんは長期にわたって便秘治療を行っているような治療難渋ケースが多い

便秘症は患者さんの満足を得られた時が治療ゴールである。重要なのは治療を継続することで、患者さんの症状に注意しながら薬剤の選択、用量の調整を行う。問診票は症状を確認するだけでなく、患者さんとのコミュニケーションツールにもなるので有効に使用する。

監修 独立行政法人 国立病院機構 函館病院 名誉院長 加藤 元嗣 先生
独立行政法人 国立病院機構 函館病院 消化器科 医師 津田 桃子 先生

便秘症の患者さんの特徴

毎日排便がないと便秘だと思っている

排便が毎日ないと便秘と思っている人は多く、そうした患者さんは「トイレに何時間も座っている」「排便がないので外出しない」といった生活を送っています。そのような症例は、まず排便にこだわることから離れてもらい、きちんと食事することを勧めます。患者さんには「それでも排便がなかったら、治療で治しますから大丈夫です」と安心感を与えます。

高齢で便秘歴が長い

高齢者で便秘歴20〜30年という患者さんの場合は、症状について昔の記憶を辿りながら話すため、どうしても診療時間が長くなります。特に初診時は長くなりますが、話の中で治療に結びつく事柄を発見することもあるので注意深く傾聴します。

食事療法で改善できる方も

患者さんの中には、これまでに様々な便秘薬を服用してきた方もいます。しかし、こうした症例でも食事療法を指導することで便秘薬の服用を止めることができるケースもあります。また、便秘症の患者さんは便秘だから食事を摂らないという方が多く、食事によって排便が促されることを伝えただけで便秘が改善される場合があります。

実際の診療のポイント

これまで服用していた便秘薬を確認

患者さんの多くはこれまでに服用していた市販薬の下剤を持参してきますが、見てみると刺激性成分が配合されているものがほとんどです。患者さんにはこうした刺激性下剤について詳しく説明し、基本的には頓服での使用、長期連用におけるリスクに言及し離脱していくよう勧めます。

最初に2週間分を処方、その後は1週間単位

便秘は薬剤投与によって日々症状が変化することがあります。こうした場合、1カ月分まとめて処方してしまうと、患者さんがどのような状態にあるのかわかりませんし、正しく服用しているのかも確認できません。処方は最初に2週間、その後は1週間単位で行うようにします。

看護師さんとの連携

便秘の治療は、患者さんの性格や生活状況を知ることが重要な鍵となります。診療した後、引き続いて看護師さんが患者さんの話を聞き、フィードバックしてもらうことで、情報のブラッシュアップや診療時間の短縮に役立ちます。

有効に問診票を活用

便秘外来ではJPAC-QOL1)(Japanese version of Patient Assessment of Constipation of Quality of Life Scale)問診票、ブリストル便形状問診票、便秘スコア問診票、経過観察問診票、エコー後の排便状況と5種類の問診票を使用しています。経過観察問診票は自宅に持ち帰るもので、1週間当たりの排便を記録してもらいます。便の状態をイラストで示すブリストル便形状スケールがついており、自宅での患者さんの状況をかなり正確に把握することができます。

問診票

● ブリストル便形状問診票拡大ヒアリングシート
● 便秘スコア問診票拡大ヒアリングシート
● 経過観察問診票拡大ヒアリングシート

提供:独立行政法人 国立病院機構 函館病院

治療ゴールの設定

治療ゴールは患者さんの満足

「食事などの生活指導で改善する」「1日1回の排便にこだわる」「気持ちが落ち込んで便秘になる」など便秘で悩む患者さんはいろいろです。
「1日1回の排便」にこだわる患者さんは多数います。逆に「4日に1度の排便が3日に1度になる」「同じ排便回数でも便が軟らかくなった」ということで満足する患者さんもいます。こうした場合は、患者さんと会話しながらいろいろな薬剤を処方し、治療を進めていくことになります。患者さんの納得するところは様々ですので、当然、治療ゴールも患者さんによって変わってきます。今がいい、この言葉が患者さんから発せられれば、そこがゴールだと考えています。

アドヒアランスの向上

薬剤は抑え気味に調整

便秘薬の変更に当たっては「便秘が悪化する可能性」「一時的に満足が得られない状態になる」など、症状の変化について話します。また、最初の段階で下痢気味になったり腹痛を起こしたりすると、治療継続が難しくなるので薬剤は抑え気味に調整するようにしています。

コミュニケーションを図る

自宅に持ち帰る経過観察問診票は、患者さんとのコミュニケーションに役立ちます。通常、便秘外来は2週間に1回、症状が重い場合には1週間に何度か通うことになりますが、こうした自宅での症状を伝えるツールを使用すると、患者さんの多くは治療を継続します。

他科からの紹介

精神科

精神科の患者さんで便秘症は多く、向精神薬の影響でさらに重症化することがあります。精神科の患者さんの便秘は治療に難渋するため、既存治療薬のみでは効果不十分の場合には、新しい作用機序の便秘治療薬を使用します。このような薬剤選択の工夫により、精神科の先生からは排便のコントロールがよくできているとの意見をいただきました。

婦人科

婦人科は、閉経後の更年期障害からくる便秘、卵巣や子宮などの外科手術からくる便秘などがあります。原因はホルモンバランスの乱れ、摘出手術による器質性によるもので、婦人科を受診している患者さんで便秘症の方は少なからずいます。

便秘外来の現状と今後の展望

便秘で悩んでいる患者さんの受け皿に

便秘外来を開設してわかったことは、長年にわたって便秘で悩んでいながらも病院に行かない人が大勢いたという事実です。便秘外来の開設がそういった患者さん達の受け皿となりました。多くの患者さんを治療する便秘外来の開設が全国的な流れとなれば、多数のデータが蓄積され、様々な治療のエビデンスが確立し、便秘治療はより一層進歩していくことでしょう。

患者さんのQOL改善をどのように行うかが課題

便秘治療においては、エコー検査のような客観的な画像データで改善を示しても満足しない患者さんがいます。訴えで最も多いのは「残便感」です。この残便感を訴える患者さんのQOLをどのように改善するか、それが課題だと考えています。残便感は感覚的なものであるため、本人にしかわかりません。感覚的な残便感が客観的に診断できればと思います。

【引用文献】
  • 1)吉良 いずみ.日本看護研究学会雑誌 Vol.36 No.2 2013 119-127
監修

独立行政法人 国立病院機構 函館病院 名誉院長

加藤 元嗣 先生

1982年北海道大学医学部卒業。1995年北海道大学医学部附属病院第3内科助手を経て1998年アメリカ合衆国ベイラー医科大学留学。2008年北海道大学病院光学医療診療部准教授・光学医療診療部部長に就任し、2016年より現職。
日本消化器内視鏡学会指導医、日本消化器病学会指導医、日本大腸肛門病学会指導医、日本内科学会指導医、日本消化器内視鏡学会評議員 、日本消化器病学会評議員、日本大腸肛門病学会評議員、日本大腸検査学会評議員、日本消化管学会評議員 他。
※2024年2月現在の情報です。

監修

独立行政法人 国立病院機構 函館病院 消化器科 医師

津田 桃子 先生

2006年秋田大学医学部医学科卒業。2008年函館中央病院内科を経て2013年北海道大学病院消化器内科。2019年より現職。
日本内科学会認定医・総合内科専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本消化器病学会専門医、日本ヘリコバクター学会認定医、日本カプセル内視鏡学会認定医、日本z消化管学会胃腸科専門医。
※2024年2月現在の情報です。